風のささやき

僕は時間を

一足飛びに時間を
飛び越えて行きたかった

憧れのその人に
自分を重ねられるように
その人の見る世界を
この目にも映せるものだと思い

飛び越えてその人に
たどり着けると信じていた
迷うことなく一直線に
それができると思っていた
記憶の片隅の若い日のこと

そうして気がついた
追い越す時間の速さ
あがらい進めない遅い歩み

その人の面影は星影より遠く
雲のように自由でつかみどころもない
どうしてたどり着けると思ったのだろう
その訳を答えてよ 若い僕よ

徒労というには
あまりにもお粗末な努力を繰り返し
知った自分の歩みののろさ
兎に馬鹿にされる亀のような
恥ずかしさに頬も火照るけれど

忍耐は秋に実をなす果樹に習い
懸命さは地を這う虫を真似
自分の歩調で進んで行くよ
それがほんとうの
僕の最初の一歩であったと
今は確かに思っているよ

一足飛びに時間を
飛び越えて行きたかった
それが自分に許されないことだと
知ることもなく