風のささやき

海に

肌理の細かい泡が
上に立ち昇って行く
眼をつむった僕は
いつの間にかこの暖かく仄暗い海の
たった一人の住人

どこから僕が来て
どこへ僕は行くのか

小さな魚のように生まれた
僕の胸には
温かく波打つ種がある
それはお腹から運ばれてくる
滋養に呼応している

潮の流れはその時々に変わる
僕は目を瞑って
その流れに身を任せている

僕の上で一定のリズムで響く
波音は心地よく

そうして時々聞こえてくる
人の声はきっと僕のことを
呼んでいる

僕はそっと微笑とは言えない
微笑で応えてみせる

やがて伸びた手足を動かしていると
この小さなくなった海の果てに触れ
その動きに驚いた
手のひらの温もりが伝わってくる

さようなら僕が
ここを出て行くときに

さようなら僕の暖かく仄暗い海よ
その温かさよ
その潮の流れよ
その全き抱擁よ

眩しい世界の中で
一声大きく泣いたのは
別れの悲しみでもあったと