風のささやき

ここにいては

ここにいてはいけない
どこかへと辿り着かなければならない

赤い夕陽に焦げる背中
薄い三日月が目に刺さる
いつでも乱暴に背中を押す手
丘の上に甲虫の体は弾けて飛んだ
齧られ続けて悲鳴をあげる心

ここにいることが許されていない
すぐに立ち去るように命ぜられている

肌に感じる沢山の視線
心に隠し持つ鋭利な刃物で
誰かが傷つけようと脅かす
警戒心で早くなる鼓動を
悟られないように道の端を歩く
追いかけてきて肩をぶつける人の数

いつでも何かに追い立てられている
いつでも落ち着いてはいられない

夢の中でも覗き込む沢山の目
声にならない一人のうめきに目覚める
麻酔が切れたような鈍痛に
脂汗を滲ませる暗闇

ぎこちない笑顔をポケットに携える
不意に誰かに会えば被れるように

静かな時を知らない心
美しいものの上には留まれない
誰かのどんな品のいい笑顔も
凍り付かせてしまう
自信だけはあって

だからますます
追い立てられる
繰り返す毎日に
擦り切れそうに回る
熱を持った心が叫ぶ

僕はここにいてはいけない
どこかへと辿り着かなければならない
ここではないどこか
どこか分からないどこかへと
僕はここにいてはいけない