風のささやき

一人で

この体と心とを与えられて
いつからか僕は一人
この世にあることを命ぜられ

答え分からないままに生を続ける
誰も旅したことのない一度きりの旅路を
何の招待券さえ持たされず

僕の心を知っているたった一人の
その僕さえもほんとうの僕の姿
きっと知らないという心細さなのに

いつからか勝手な思い込みと
自己弁護との襤褸でこの身を隠し
貧相な姿を気にして
目をギョロつかせている
人の顔色を常に伺いながら

どんなにか誰かと分かり合えたと
涙ぐましく思えたその瞬間から
離れて行く人の心の距離の遠さを
星の遥かさよりも果てしなく感じ

その隔たりの向こうに
笑っている人の顔は
いつでも大風の向こうに
直視することができない
差し出されたはずのその手
掴むこともできずに

いつでも濡れている
僕の目の縁の涙を飛び散らせる風に向って
誰にも通じない独り言のような言葉を
呪文のように呟きながら
流転の相にあり続ける
白い雲の消えて行く後姿
あてどなく追いかけながら

僕は今日もそうして
心の語るがままに生きている
こんなにも疑心暗鬼でいる心の
横暴な主の命ずるがままに
動揺に揺さぶられる船酔いを常に感じながら
先の見えてこない一人旅を