風のささやき

砂上に

僕の足元から
砂を奪い去って行く
波の群れの連なり

まるで僕を一本の木に見立てて
棒倒しの遊びをしているみたいだ
(波は僕が倒れてしまえばいいと
 思っているのだろうか)

不意に僕は平行感覚を無くし
足元がおぼつかなくなる
踏み外した足は
新しい波の標的
(さっきまで頭上にいた鴎が
 僕の真下を飛んで行く)

僕は負けたのだと
波が白い泡をゴボゴボと吐きながら
無邪気に笑っている
(きっと悪気は無いのだ)

その屈託の無さはいつしか僕が忘れているもの
いつからか僕はこんなにも
不安におびえ続ける弱い心を抱いている
(それだけ痛い思いをしたからね)

青い空に横たわっている白い雲も
どこか飾り物のようによそよそしくて
この風景の中では
僕はもっともっとよそよそしくて

僕が立っていられる場所は
一体どこにあるのだろう
この砂のようにもろく
すべての足元は崩れて行ってしまうというのに
   
確かに何かの上には
僕は立ってはいるのだが