見えない手紙
まどろみの瞼に ふと 祖母の顔が浮かぶ そこだけが蝋燭で 照らされたように明るくなる 祖母の穏やかな微笑み あれは小学生の夏休み 東京へ帰る車が かどを曲がり見えなくなるまで 見送ってくれた祖母の顔だ 小さな手を振るバイバイに ずっと応えてくれた 祖母の優しい眼差しだ 寒い冬の夜のこと ひときわに温もりが 胸に深く沁みる 久しぶりに穏やかな 深い眠りに誘われる 慈しみは見返りを求めない 気づかないところでも 注いでくれた眼差しに どれだけ導かれ救われたのだろう 祖母のくれた温もりは 誰から注がれたものだろう 大切な愛情を受け継いで僕も 絶やすことなく誰かに この胸の灯りを 渡さなければならない 言葉にならない想いを書き足して 人から人へと手渡されてゆく 目には見えない心の手紙の束として