風のささやき

青白い静寂の封印

その扉を開けば、世界はジグソーパズルのように崩れ
指先で触れたものの全てが本当の姿で腐り落ちた
空には赤い三日月がひび割れて
クレーターの欠片を禍のように降らせる

遠吠えを引きずる後悔に
戻れない扉の先は真っ暗な舞踏室だった
灯りのない部屋は身勝手な歌で満ち
棘のある音符が鈍い釘のように打ち込まれる
足元は焼けた鉄板の舞台で
「誰か助けて」を止められない舞踏だった

見えない闇の中では
人の口からの身勝手な憶測が憶測を膨らませた
しわがれた声がラジオ局のように鼓膜を占拠し
乾いた砂嵐のような放送が続いた

ビルは窓ガラスを割っては落とす兵器だった
透明なガラスの破片が肌を裂いた
深く傷ついた人はその場に動けなくなり
呪物のように目を見開いて世を恨んだ

電車に運ばれて体は売買された
僕の頭も電車を乗り継ぎ運ばれていった
改札もない無人の駅で誰かの頭と取り換えられた
乗り物酔いを植えつけられた記憶は
いつまでもぐるぐると目を回し時を遡れない

雪の匂いの風がビルの谷に吹き
息も白髪のように真っ白に染まる
首筋には刃物の冷たさが命を狙い
脂汗のにじむ額は緊張に
震える指先はシャツの釦さえ止められない

誰か気づいてくれないか
こんなにも壊れ脈絡をなくした世界に
この心が壊されようとしていることに

僕は心をギュッと小さく折りたたむ
誰も追ってこない鉄の棺に逃げてゆく
冷たい土くれの圧力に呼吸を失い
ギュッと体も丸め込む

僕は硬質な時間に閉じ込められる
ひび割れた心を封印した
もう二度と目覚めたいと思わない
青白い静寂の化石に
← 詩の一覧に戻る