風のささやき

合歓の木陰に

頭上の太陽は
形あるものを黒くなぞる
まるで汚点であるように
地上に広がる僕の影

親指 人差し指 薬指と
指の一本さえも逃さずに
存在がヒリヒリと
夏の地面に焦げ付く
お前の罪だと見せつけるように

自分のものではないような影を
動かしてみる指先につられ
操り人形のように動く影
あるいは影の操り人形の僕

傍らの合歓の木
沢山の羽のような葉を生い茂らせて
夜になれば重ね合わせる
千手よりも多くの祈り

その木陰に逃げ込んで庇われて
姿を失う僕の影
腰を下ろして
そっと安堵の吐息をついている

緊張から解き放たれて
一滴の汗が額を走り地面に落ちる
その跡をもう影はなぞらない

見上げれば合歓の葉が揺れ
風の真っ直ぐな通り道
空に手向ける桃色の花を
罪滅ぼしの数だけ咲かせるように

合歓は母のように庇う
そっと休ませる
何かをした訳でもないのに
葉を重ね合せ
僕のために祈ることを止めずに

黒い一匹の蟻が傍らにきて
そっと動きを止める
合歓の木陰に一緒に隠れる
一息をついて

庇ってくれる
合歓の梢を見上げている
ほっと救われている