朝焼けと僕の血とが混ざりあった空には
爪を立てた跡を曳く
赤い雲の手形が押されている
僕の波打つ心臓を
そこに押しつぶしたような
○
不吉な朝焼けの色模様は
僕の心の不安の種が芽吹いたもの
その実を噛みしめると
歯にまとわりついて離れない
気まずい酸っぱさ
○
潮風は肌にねっとりとまとわりついて
まるで粘着質な昆虫の体液のようだ
僕の顔にタトゥーを刻み込みつけ
お前をもう逃すことはしないとでも言うように
○
裸足の砂浜は
足元の下から波に浚われて
いつまでも足もとが覚束ない
砂時計の上に爪先立ちしているようだ
僕の思考もさらさらと崩れてゆくだけ
○
海の水でうがいをしてからというもの
喉がいつまでもヒリヒリとして
癒えることのない
肉の裏側に潜り込んでしまった乾き
○
深い海の底を通り過ぎていく
海には暗い情念が宿っている
海の底のもだえその苦しみに持ち上がる波は
凶暴に浜辺に襲いかかっている
○
びっしりと貝殻が身を低くする岩礁
白い泡吹雪は気絶する人の口から
零れてここに運ばれて来たのだ
○
青白い夜光虫も海の底の海草も
暗い情念にまきつかれたままだ
僕の身もだえを救う手だてを語ることもない