風のささやき

叫び

大きな声を上げて泣いている子供は
声にならない叫びを知らない

叫びは堪えられている
叫びは鳴り渡る
一人一人の八切れそうな心
膨らみ切って涙で虹色の
薄膜の向こうに辛うじて

それを膨らませ縮めながら
呼吸をするように
人は一日一日を
精一杯に暮らしている

それは優しい
慰めの一針が刺されば
すぐにでも弾けてしまう
シャボン玉の脆さ

それを望みながらも人は
自分の心が弾け取り戻せなくなること
恐れ隠して心の奥に叫びを抱え

真っ暗な部屋に独り
噛みしめる歯の奥からも
零れそうになる叫びは噛み殺す
そうして噛み砕かれて行った
叫びの落ちて行く喉の奥には
寂しさの凍った青白い星が光り

人と人との間の
埋められない距離の遥かさを
何時しか思い知らされて
打ちひしがれながら
叫びにならない叫びがあることを
叫びたくても叫べない叫び
叫びにしかならない思いもやがて
人は自分の一部として
言葉にする強さをも持って

叫び抱えるその手の先を
叫び抱える誰かとしっかりと繋ぐ
叫びの先にある日の
歩みの確かさを信じながら