風のささやき

合歓の木陰にまた

合歓の木陰で休む
心には真っ黒な闇が広がる
白いテーブルクロスの
黒いインクのように

合歓の木陰に抱かれて
消えたはずなのに
一層 濃い影が体から滲み
僕が浮かび上がる

その底なしに
傍らの蟻も慌てて逃げる
きっと近づいてはいけない
僕は不幸の販売人

いつからこんな闇に
支配者されていたのだろう
あるいは闇自身が正体であることに
気が付いただけかも知れない

その闇に落ちてしまった
素直な笑いや怒り
悲しみを取り戻そうと
けれどその試みは徒労だった
嘆きさえも貪欲に飲み
広がる闇に黙って梢を見上げる

風が吹き
合歓の影もゆれる
葉の間から落ちる陽射しも
同化させる闇が
しっかり心を占拠している

合歓の木陰にも滲みだす
闇の濃さに動きだせずにいる