風のささやき

新しい気持ち

寒かった風が光りに潤んで通りすぎて行く
もうすぐコートもいらなくなる
暖かな風に変わるのだろうな

その尻尾には沈丁花の香り
どこからまとわりついてきたのだろう
姿は見えないのに僕の鼻腔を甘くして

さっき横切った線路に立ち止まり
山並みに進む方を眺めてみたら
春が集合しているのだろうか
その先が明るんで見えた
手前には菜の花が群れて咲き
僕を招くように手を振っていたっけ

きっとそちらの方から走ってくる電車は
いつの間にか乗り込んだ
陽射しを座席に乗せて駅に滑り込むのだろうな

僕もまた旅にでも出たいな
足が棒になるほどに当てもなく歩いて
素直な心を取り戻したいな
春風にすっかりと洗われて
優しい気持ちで満たされてみたいな
それが今の僕にはとても贅沢なことだから

何回も迎えてきた春なのに
泡立つように僕の胸の内から
また新しい気持ちが湧いてくる
これは一体どこからの贈り物
そんなにいいことをした覚えもないのにな

僕はまだまだ新しい自分に生まれ変われるのかな
そうだよと風が僕の肩を叩いてくれた