風のささやき

傷口

笹の葉の縁で指の先を切った
鋭い切っ先の痛み
真一文字に滲む赤い血

そんな痛みを
人の言葉に感じてしまう
僕の心は見えない傷で一杯だ
傷は傷の上に傷を重ね

癒える時間を知らず
肌に爽やかな
秋の入り口の風にさえしみて

押し殺した呻きは
毎日のもの

僕が卑屈そうに笑うだろう
それは大抵がやせ我慢の目くらましで
人の世に僕がある限りの
僕の仕来りだ

いつの間にか身についてしまった
卑屈な渡世術
僕が身を守るための保身術

傷口に強く捻じ込んでくる言葉に
切り付けられながら
それを感じまいと鈍感を装いながら
僕はそれでも生きている

僕に押し殺された
たくさんの痛みが
夜な夜な膨れ上がって
僕が破裂しそうになることを
誰にも気づかれないままに

 ○

そうして僕はそれ以上に
言葉を発するのだ
自分を切りつける言葉以上の言葉を
いつの間にか相手の喉元に向けて

僕は自分の言葉の行き先を知らない
いつからか僕の言葉が凶器に変わって
人の胸にナイフのように
刺さっているとしたならば

僕は怖い

だから僕は言葉を押し殺して行くんだ
じっと黙っている僕は木偶の坊に見えるだろう
けれど凶器を振り回す狂者よりは
木偶の坊がよっぽどにましだと

無理に飲み込んだ言葉が
僕の胸にうず高く積みあがり
僕を押しつぶして行くんだ

 ○

ばら撒かれたガラスの破片のような
チクチクとする言葉に囲まれている僕が
途方に暮れてしまっていること
おかしなことだろうか