けたたましい声で笑いながら
少年たちが歩道を歩いている
日に焼けたその肌
会話の一言一言が楽しいらしい
小突き回したり回されたりをしながら
帰ることを惜しむように
ゆっくりと茜色の夕日へ歩を進めている
この道は何処へ続いている道
真っ直ぐに続く道
銀杏の並木が青々として
遠くの横断歩道に掲げられた
青い標識の文字が霞んで読めないから
今日勉強したこと悔しく思っていたこと
汗を流したこと夢中になったこと
その一つ一つは忘れられてしまうけれど
何気ない毎日が大切な思い出に
代わっていくこともある
(痛み和らぐ優しさも時間にはあるから)
目を瞑るとふと僕にも
浮かんでくる懐かしい風景が幾つもあるよ
広がる水田の長閑さそこに映る青い空
夏の山に抱かれて静かな故郷の風景を
蝉の声を夕暮れるまで浴びていた
その姿を探すことに一日を費やし
成虫に生まれ変わる
白い姿の蝉を桑の畑に見つけた
アメンボだらけの用水路に足をつけて
ヤゴもドジョウも砂にかくれていたっけ
涼んだ後にはトンボを追った白い網も
夏の終わることには薄汚れて見えた
蜘蛛の巣を払ったり野菜を運んだりもしたから
スイカ畑で食べた生温かい西瓜は
美味しくなくとも「美味しい」と答えた
こちらに向けられた笑顔が嬉しくて
丹精を込めて手入れをしてきた実り
一日の作業の終わりには
日に焼けた肌が痛むこともなく
夕日の大きな瞳に見送られて
トラクターの荷台に揺られた
仁王立ちの自分
英雄のような高ぶりを
許すものばかりだった
ねえ、君たちといる毎日もそうだよ
僕には大切な沢山の風景なんだ
小さかった君たちがいつの間にか自分の足で立ち
言葉を覚えて鉛筆を持ち勉強をして
君たちを頼もしく思い
やがて僕から離れて行く日もあって
その時に君たちの胸には
どんな懐かしい風景が宿っていることだろう
それが君たちを力づけることもあるから
沢山の楽しいことを蓄えて
綺麗な景色に憧れを抱いて
苦しい自分には歯ぎしりをして
そこから抜け出そうとして
美しい思いには背かない自分でいてくることを
一つの物語を眺めるように
目を瞑る時に
今日の積み重ねの豊かさ
幸の生が君たちの上にもあらんことを