風のささやき

初夏の海の思い出

まだ浅い夏の潮風は子供の無邪気さをして
あなたの長い髪に戯れている
そこに触れに来る沢山の陽ざし	

打ち寄せてくる波打ち際は銀色
近寄るあなたが吸い込まれるその眩しさ
白い服が溶け込んでいく砕ける波の泡飛沫

いつまでも足跡続けた海岸線
時々は手を重ねその温もりを感じながら
愛しくて時を止めてしまいたかったそのままに

暮れていく一日の終わり
海原にかかる一本の道は沈み行く夕日まで
踏み出しても渡れない人には許されていない橋の向こうへ

それは誰も知らない夏の思い出
それ以来足を運んではいないあの海
時は流れて会うこともなくなった人

あなたに伝えたい言葉は未だ胸の中に
風に揺れ透けた麻色の髪の印象だけが
胸騒ぎのように胸の内に渦巻いている

それはいつしか消えていく騒めき
陽ざしの中に解きほぐされる僕の胸の
哀歌をいつまでも波は真似るだろう

あの海にまた出かけることをしようか
あの時に歩を止めた足跡の先を辿りに
僕の胸に残ったままの言葉をそっと波に預けて

「ありがとう」そうして「さようなら」と
砂に文字を刻みそれを波に洗われて
数多の人の辿った道筋を僕も歩いて

繰り返す季節の終わりに
空はどんな色をして僕を迎えるのだろう
その時にはせめてあなたの笑顔を抱いていられますように