風のささやき

風が吹いて

風が動き出す
まるでこの隙をうかがっていたように
青い空がどきまぎとして
藍染のように青さを深める

風が動き出すと
野山の草も小刻みに震えだす
まるで何かに怯えているもののように
透き通るほどに青ざめて

風はその上を
土足で踏みつけて通る
下敷きになる細いタンポポや土筆の首が
地面と水平に捻じ曲げられている

風は確かにそこにいて
僕にぶつかってくる透明な塊
僕は顔を下に向けて
その風に耐えようとする
首に血管が浮き立つほどに力を入れて
僕の首はタンポポほどには曲がれないから

風は僕の目を塞ごうとする
僕の耳を閉ざそうとする
もうそれ以上何も見るな
何も聞くなと

獣のような遠吠えで
風は怒っているのか
あるいは僕への忠告心で一杯なのか

風が暴れている
新緑の小枝が次々と折られていく
もう芽吹く必要もないと告げるかのように

風は傍若無人に振舞っている
僕の目の前に続く唯一の道も
砂塵で先の見えないものにして

風は僕の胸の内も荒らしまわる
僕の心は糸の切れた風船
風圧に破裂するその時を待ち

風が吹き荒れた胸の内のまま
僕はそれでも歩き続けなければいけない
風に荒らされた胸の奥底で
まだ何か叫ぶものがいる

僕を引きとめようして
風は暴れているのか
あるいは僕は試されているのか

そう思うのはお前の驕りと
愚鈍な僕をなぎ倒そうとするかのように
風は確かに激しく吹いている