風のささやき

積み木の汽車

黄ばんだ紙を張りあわせた空を
積み木の汽車が走ってゆきます
小さく突きでた煙突からは
ドーナツ形の煙がぽっぽとあがります

汽車は嬉しそうにうっすらと上気して
薄紅の頬のように汗ばんでいます
愛情という柔らかな風に押されて
線路無き空を縦横無礙に走ります

疲れを知らない木の車輪を
遮る物はありません
ただ心の赴くままに走ります

先ほど追い越した紙飛行機を
目指して楽しく走ります
空には沢山の風船が
まるで花畑のようです

すっかりと調子付いて
楽しすぎる積み木の汽車は
煙をさらに吐き出して
車窓からはクマの縫いぐるみが
手を振ります

桜の花の森を汽車は通り抜けます
大きな欠伸をして寝そべるライオン
バナナを差しだす象の長い鼻
綿菓子の実には小鳥が集います

少し疲れた積み木の汽車は
やがて青い湖に休みます
金色の陽射しの触れた水で
喉を潤すと満足をして
黄ばんだ空を汽車は眺めます

気がつくと空から降りてきた手が
汽車を優しく撫でました
子犬のようにぶるっと
汽車が体を揺すらせると
いつの間にか窓の外は夕方

子供はそこで
見慣れた部屋にぽつんと
お昼寝から目を覚ましました

積み木の汽車はどこにもありません
驚いて少し悲しくなって
添い寝の母の胸に
顔を埋めて一頻り泣きました

積み木の汽車はその間にも
黄色の空を走ってゆきました