風のささやき

もう僕は何も

もう僕は 何も耳にしたくはなかった
新しいこと 何一つ知りたくはなかった
その度ごとに体の芯から
ドギマギとしてしまうから

僕の心臓が新しい出来事に
どれだけ青白く波打って
恐怖に震えるのか
まるで陸に捨てられた小魚の
最後の痙攣のようにピクピクとして

僕は緑の翡翠に閉じ込められた
小さな泡粒のように
いつまでも目覚めることの無い
カンブリア紀の夢まどろんでいたかった

僕をそこから呼び起こすのは誰
どうしてそんな暴力で僕を苦しめるの
僕の奥歯がきりきりと軋むのは
万力のような力が
僕の顔を押しつぶそうとするから

僕は林檎ではない
僕が真っ赤になって押しつぶされたとして
搾り出されるのは断末魔の絶叫と
真っ赤な血しぶきだけだ

したり顔をして僕を諭そうとする
青白い肌をしたものが確かにうなずく
気味の悪い歯並びの
白い馬のような口が笑っている
血走った玉子の黄身のような目が
僕の恐怖を見透かすようにすり寄ってくる

僕はもう繰り返す
昼と夜との鬩ぎ合いの合間

僕を静かには放っておかない
周りのすべてに
すっかりとすり減らされてしまい

細り行く神経に小さな出来事の一つ一つさえ
ますます過敏に感じとっている