風のささやき

田舎の猫

薄暗い玄関の土間に佇んでいる一匹の猫
まるで木彫りの置物のように
ずっと以前からそこにあったように馴染んで
背中には室内の薄暗い影を背負っている

何かを待って佇んでいるのか
あるいは家の中に入ろうとする
目に見えないものから
家を守ろうとしているのか

玄関の外には
晴れ渡った夏の午後が
どこまでも続いている
のうぜんかずらのオレンジの花が
その青さにからみつく
いつからかそのままそこにある風景

その仕事を邪魔するかのように
寄ってくる蝿にも余裕の素振で
しっぽを時折動かしながら
玄関に佇んでいる家の猫

都会から遊びに来ている
隣の家の子供たちは
どこかに遊びにでも行っているのだろうか
随分と今日は静かだ
(それとももう
 都会に帰ってしまったのだろうか)

その静けさを埋めるように
降り止まない蝉時雨
その旅立ちの後の空蝉を今朝
庭の葉陰に見つけた
それを隣の子供たちにも
見せてあげようと思っていたのだが
(それとももう
 都会に帰ってしまったのだろうか)

木彫りから石化してしまったように
玄関に佇んだままの玄関の猫
あくびをすることもなく
寝転ぶでもなく

田舎にはこうした守り神が
たくさん昔からいる