風のささやき

卒業

もうここに届いてしまった
自分が来ることは無いように
思っていた場所に立っていることの
嬉しさと寂しさとが二つ
胸の中に入り混じり
解くことができないでいる

いつからか春風が窓を叩き
誘っていることを知っていた
新しい季節へと踏み出していく歩み
眠り足りない目を閉ざして
気づかないようにはしていたが

いつの日かそこを
通らなければならない
けれどそれは夢の中での
淡い出来事のように感じていた

直ぐにでもそこにたどり着きたいとも焦り
その日がこなければ良いとも思い
毎日の先につながっている卒業の
その日の自分その日の気持ち
思い描くこともできずに

いつでも一緒にいることが
当たり前だった友達と
今日を境に離れていくことも
通いなれた通学の道
お喋りしながら歩かなくなることも
この街の匂い風の香り
陽ざしの感触自分を包むすべてに
今は別れを告げること

卒業すれば当たり前のことなのに
それはまだ信じられないでいる
戸惑いさえも押し流してしまう
時間の流れを背中に確かに感じている

やがては写真に
友達との会話に
したためた日記に
蘇る思い出があるのだとして

今日はさようなら
いつまでもありがとう
まだまだ道が続いている
前に進む足を止められない

だから浅い春の日に
一番似合う笑顔を添えて
少しの涙に濡れ
気持ち高ぶることがあっても