風のささやき

万華鏡

小さい時分に貰われていった
僕の玩具の万華鏡は
もう疾うの昔に壊されてしまったのだろう

車輪のような部分を回し
太陽に透かせば
不思議な色絵巻が終わることなく続く
僕は縁側に座り
気持ちのいい風に吹かれながら
何時までも移り変わる色彩の川を
眺めて過ごしたっけ

本当は渡したくはなかった
大好きな万華鏡
お兄ちゃんだからと
言い渡された我慢
買ってくれた母でさえそう言った

その我慢の意味はあまり解らなかった
だってそれは今の今まで
僕の大好きな万華鏡だったから

それが何時の間にか
小さな親戚の手の中で
僕の物ではなくなっていたから

それもミニカーとして扱われ
ビーズの入った車輪は
真っ黒なタイヤだと言われた
そうじゃ無いよという言葉を
僕は子供心に飲み込んだ

「お兄ちゃんだ、えらいねと」と
嬉しくも無い褒め言葉で煽てられ
「もう一度買うから」と
その時だけの言葉で濁されて
「そんなのいらなかった」と
僕はせめてもの抵抗で言い放ったっけ

そうして貰われて行った僕の万華鏡を
悔しい思いで眺めていた
僕の心持ちは誰にも知られず

それが理不尽の始まりだったのか
今だって解らないままに
やせ我慢を強いられている僕は
あの万華鏡の終わることなき色遊びの中で
本当はいつまでも遊んでいたかった