風のささやき

海が瞼を閉じて
砂浜に打ち寄せる白い波は
その瞳から零れ落ちる大粒の涙

人の世の尽きない悲しみを悼むように
とめどなく繰り返し流れ
僕のズボンを塩っぱく濡らす

波打ち際まで近寄りすぎていた
僕もまた泣き濡れて
戯れに白い貝殻を拾った
空に放り投げた
宙に散らばる鴎に向かい
慌て物が餌と間違えて
食べてしまうことを期待して

誰からも相手にされない失速
陽射しの鎖をつけて
空からすべり落ちる
キラキラとしたペンダントのようだ

海が飲み込む僕の悲しみ
人知れず流した涙を
もっと大きな涙で
海は隠してくれるから

まるで僕のために泣いている
それは甘く

僕もまた歩き出そう
最初はおずおずと自信なく
一歩一歩を恐れながらも

その涙の届かなくなるところ
緑の草生える
乾いた白い砂浜から

僕のために歌われた
悲しみの潮騒を耳に携えて
潮風の吹いて行く明るい道の方へ

僕の足跡を消して
また繰り返し涙を流す海

その涙の縁から
また明日
歩き出す人がいるだろう