風のささやき

古い夢

部屋の外で猫が鳴いている
早く開けて欲しいと言っている

そういえば台所の引き戸を
開けてきたかしらと
まどろみの中で
少し前の記憶を探る
うん 大丈夫だったと確かめて
また眠ろうと身を委ねる

雪が降っている
寒さが入り込んでくる
布団にくるまって寝返りを打つ
さっきまで瞼の裏にあった夢は
色あせた写真の様に懐かしかった

古い木の家
囲炉裏端の祖父や祖母
若い母もいる
ご飯とみそ汁と漬物
三毛猫のミッケも食事をしていた
ふさふさとしたその毛に触った
気持ちよさそうにニャーと鳴いた

いつの間に眠りから剥れ落ちた夢は
猫の記憶の先にかろうじてつながっていたようだ
古い夢の懐かしさの余韻
もう少し浸りたくて
布団からは離れずにいた

加湿器が湯気を立てている
赤子はすやすやと眠る
時折 手足をビクリと動かして
それはきっと動物的な反射
悪夢に脅かされた訳ではなかろう

まだ夢見る力はない経験の少なさと
一人で生を掴むにはあまりにも小さな手

僕にも幼い頃があったと
すっかりと忘れていた
それを思い出させてくれたのは君
これから君と一緒に
自分の生を振り返るのだ
そうして楽しい夢を
新たに積み上げるのだ

雪はまだ降り続く
いつまでも止まない
赤ん坊はいつから
夢を見始めるのだろうか