放浪の夏
放浪の夏
- 秋の日に色づきゆくものは
- 秋の日に百合の花弁をなめた
- 寂しさの余韻腹に風穴を開けた
- 九月の海人影もない海岸線はなだらかに続く
- 港町の日曜日魚くさい日差しに
- 夏の群れ空には入道雲が浮かんでいる
- 朝の聖者金に光る横顔の聖者が
- 霧が流れて山肌を霧が流れていく
- 野を走る狂気狂気の叫びが野を走る
- 夏の野に誰かが頭の中で
- 向日葵畑に強すぎる太陽が
- 日曜の村へ小さな風の戯れに
- 夕映えに麦畑に寄せる 夕日のさざ波が
- 泣き出しそうな雲迷子の子供のように
- 湖静かな陽ざし注ぐ
- 村の風なだらかな緑の牧草地
- 田園散歩丸い丘には
- ひまわり畑に大輪のひまわりが咲きならぶ
- 旅先で一人 立ち尽くすには
- 夏の駅で赤い電車が汗をかきながら
- 天窓大聖堂のような
- 古城にて雲の遥か上がまぶしい
- 橋の上写しとったそばから
- 薔薇園の印象重ねる花びらの奥に
- 大聖堂の広場に広場を占拠していた鳩が夜に眠り
- 西日の広場に悪夢と現実とが
- 大理石の広場に鳩と人とが交錯する 喧噪の広場に一人
- 石畳の広場に照りつける夏の日差しを
- 白い広場に人と鳩とに焼き尽くされる 真夏の広場で
- 放浪の夏放浪の果てに訪れる
- 夏の遺跡夏の遺跡には
スペインに憧れて
- その人の血に空に消えていった 祈りの言葉
- 天空の人にあなたは どれだけの民の瞳に
- セビーリャにて強い陽射しが 木立を影絵に変えて
- 地中海に遊び白い家々が 半島に貝殻のように住みついてる
- ロンダにて羽一杯に 風はらませた燕が
- アルハンブラ宮殿にて長い年月に すっかりと赤く
- 白い街にて白い壁の家々の部屋 通り抜けて
- オリーブ畑の道に一面が銀色の 陽射しを照り返す
- 修道院の中庭にこの修道院の中庭に
- 砂漠の夢に砂漠の砂を 粉々に噛み砕こうとする
- 乾いた大地の印象に赤茶けた 地平線は
- トレドにて祈りの言葉は いつも静謐な暗闇に
- 日曜のお昼に嗚呼12時の 鐘が甘く響いている
- 飛行機に座って西日が差しこむ
冬のイタリアで
- ポンペイの遺跡にて明日あなたの微笑が
- 水の都に小さな引っかき傷を
- 中世の街並みにひそひそ声のように鬱陶しい雨が
- 温かな一皿を夕日に燃え立つ何もない麦畑に
- 祈りの夕べに打ち捨てられた教会の
- 路面電車に乗って昨日までとは打って変わって
- 彫刻の街で冷たい大理石のベンチに座る
- 大聖堂であなたは青白い光で体を包み
- 霧深い街で夜の霧にむせて
- 飛行機の中で君の横顔を分断するように