風のささやき

夏の野原に

汗をかき喉の渇きに耐えて
夏の野原を高ぶりながら歩く僕に
耳の中で誰かが
歩くことを強要している
(いつものことだ寝ても覚めても)

黄色い太陽がまきあげる熱風に
真っ白に色を失う瞳
おし黙って
僕を焦がす陽射しに焼かれたまま
僕はまた読みとれない
風景の奥底に隠れ
解きあかしを望む秘密が
時折は天使のような出で立ちをして
見えることもあるのだが
(それをはっきりと見つめられれば)
すぐにかすかな夢のように消える

砂漠の蜃気楼よりもたち悪く
僕の白昼夢にこびりつくその印象
魂をヒリヒリと焼く熱さ
日射病のような
僕はもうろうとこめかみを押さえ
靴の中の指先だけが
割れた爪の痛みで
僕を目覚めさている

何度も見たような風景を
まわり続ける彷徨に
きっと自分が気づかないだけだと
疑いの言葉のかたまりに
やがて重くなる頭は明晰さを失い
あせりの思いが神経となる
喉の震えが奇声を発する

草むらの中から飛び立つ
鳥たちのえさに
少しずつ食い破られる心臓
気持ちにはついていかない両足の
張れ上がる筋肉が
やがて機能を停止する

寂しくひび割れる魂に
流す涙もないほど乾いて
僕は壊れて行く
ひざまずき
道のとぎれた空を見上げて
(燃え尽きることもない
 どうしようもない自分を
 持て余しながら)

肌の焦げ付きが鼻をつく
遠い遠い太陽
力無き者へは強すぎる陽射しに