風のささやき

放浪の夏

放浪の果てに訪れる
名も知らない異国の街を
もう動きたくない程に歩く

褐色の肌の人々にまぎれ
日差しに焼かれながら
砂塵まみれの
乾いた空気を吸い込み
足の裏を石畳は
靴底から焼き払うようで

土色の壁には黄を濃くした光り
僕の遅い足取りを意地悪に嗤う
自分はこんなにも早く
動けるのだところげて見せる

僕のまわりの時間だけが
長い物憂いに疲れ
べっとりとのしかかる
手足が鉛のように重い
力を込める
一歩一歩に息切れる

目に入る形象は蜃気楼のように歪む
通り過ぎる人々は熱病のように
すべての視線が僕をその認識に置かず
判らない言葉が僕の耳を
鏃のようにかすめて行く

店先に並ぶオレンジ
妙にどぎつい色をして
まるで敵意を向けているようだ
慌てる僕の心を見すかすように
売り子はニヤリと白い歯を見せる

-どこに僕の帰るところが
 あるのだろう

一羽の燕が空気を切り裂き空へと進む
その垂直な視点に僕の魂をのせて
届きたかった

あの大きな雲の上
空の青さがわき出すほとりを
越えたはるかなる深みにまで
研ぎ澄まされた矢のような叫びとして