風のささやき

中世の街並みに

ひそひそ声のように鬱陶しい雨が
ゆっくりとした歩調の
僕の靴先を濡らしている石畳の坂道の朝

雨に煙る中世の街並みに人通りは少なく
雨を含んで色濃くなる赤レンガの壁
水滴にむせ鈍く鳴る鐘の音
ブロンズの彫刻の肌を艶かしく雨粒が滑り

きつく閉じられたままの扉の向こうからは
中世の生活の匂いが漂ってくるようで
僕の立つ足もとの時間の確かさも失われていく

雨は
何百年もの間 こうして雨は
変わることなく
このレンガ色の街を濡らして来たのだろう
無数に通り過ぎた傘の色を覚えることも無く
恨めしげに見上げた顔つきを思い出すことも無く

けれどその雨粒よりも多く
この街に生きた人々の思いは
この街の風景に降り注ぎ 沁み込んでいる

壁の模様の一つにさえ
指先 触れれば熱くする 声が聞こえてくるようで
教会の壁の亀裂からは
押さえきれない 祈りの声が漏れている

どれぐらいの雨がこれから
さらにこの街の横顔を洗うだろう

けれどそれ以上にまた
多くの思いがこの街には生まれ

せまい道 古い塀の
顔寄せ合う家々の暮らしに支えられ
人々がお互いの
生の上に 生を重ねながら