風のささやき

オリーブ畑の道に

  ○オリーブ油のパンに

一面が銀色の 陽射しを照り返す
オリーブの葉は この土地の風の色
洗いたてた 洗濯物のように
真っ白な家の壁を 楽しそうに駆けていく

絞りたての オリーブの油
固いパンの 一切れにつけて
少し乾いた唾液の中に 押し込んでみると
芳醇な香り濃厚な味は パンをご馳走に変える

きっとオリーブは人生に
深い 慰めを与えてくれる
天から贈られた 金色の一滴

それぞれの 大地の上にはきっと
天から 与えられるものがあり
それを素直に楽しみ 大切にする人々の
笑顔は とても明るい

その笑い声に 触れているだけで
僕の中にも 何か大切なもの
芽吹く ような気がして
この土地の人々との 語らいを楽しんでいた


  ○壊れそうな白い家に


オリーブ畑の大地に
崩れそうになっている 真っ白な家
その中を 乾いた風が通り過ぎて行く

どんな強い 陽射しが
お前の白い 肌を焦がしたの
枯れ草よりも 弱々しげな
ひび割れの 細い壁
青空を支える 力を無くし
大地にひれ伏す 黄色の屋根

一つの風景に 取り込まれてしまい
もう息づくこともやめた 白い家
どんな幸福や悲しみが その中に休んでいたの

今は その面影さえも
隠れるところない 白い家から
逃げ出してしまい

生まれた姿の 石くずへ
戻って行くためだけに
時間を費やす 白い家

物言わぬものたちを
優しく 抱きかかえる
この大地の 甘い眠りに
かろうじて起立している 白い家


 ○バスの中で


僕はすっかりと
自分に降り注ぐ 陽射しに満足をして
白い大理石の 彫刻を真似る

軽い微笑に 目をつむる
光に包まれた 宝石のような思いを抱いて
青い海の底に 満足げに下りていく
地中海の静かな 時間を眠りに

僕の姿を眺めた風も
随分と甘く なるに違いない