ポンペイの空の下
明日 あなたの微笑が 予告なく 消えるのならば この青空の風景さえ 悔いにささくれ立つだろう 手になじんだ扉の取っ手 明るい朝日を浴びる暮らし すべてが夢と霧散すれば 退屈だった昨日までが 繰り返し胸をつぶすだろう たった一瞬の灼熱に すべてが焼かれ 弄ばれた運命が 破れた白いシャツのように 風に翻る 天井をなくした部屋を 青空が侵食する 体当たりを繰り返す風は 壁を崩そうとする 天に曲がる柱は 重さを忘れて 老人のように立ち尽くす 広い浴場には黒い雨水がたまり 舞台には笑いの名残も響かない そこにあった生活の香りは 風にさらされて弔われ さっき歩いた街の アパートの洗濯干場を思い出す 洗剤が混じる潮風の香り 洗い物を干す 皺の深い手の陽だまりを 人の匂いと温かさを 身近に感じたくて あなたの細い肩を そっと抱き寄せ 髪に顔をうずめた
ポンペイの遺跡を訪れた時の印象に。Last Updated 2026/01