風のささやき

野を走る狂気

狂気の叫びが野を走る
湿原に吹く風のような
脳を吐き出そうとする
身もだえにも似て

高ぶり張りつめる草むら
髪の毛のように緑は逆立ち
空の奥底の深みからは
ソプラノの高い声が血のように
ゴボゴボと沸き高く響く

僕は二枚貝のように
柔らかい体を痛めながら
這いつくばる地面から
素早い雲の行く末を
ふるえる触手で恐れている

空には祈りを捧げる死者の群
その姿を滅ぼそうと
赤い炎を投げかけるにごった太陽
僕の体からむしり取られる恋人の肢体は
深い裂け目に投げ捨てられて
その温もりが消えて行く

パイプオルガンのような
重苦しい響きが耳をふさぎ
なすすべもない三半規管への疑いに
僕は立っている地軸をなくして
ゆらめく意識が遠くなる

地面からつき出した銅像の視線に
空気がブロンズに染まる
僕は息を吸うのも苦しくなり
かみ合わない歯を震わせながら

静かに鳴る教会の鐘は
死にゆく僕へのレクイエム
遠い墓場へ運び込まれる
僕の体は暗い闇をまとい
やがてたくさんの
とぼけた春がやってきて
動けない僕の体に
さわがしく歯を立てたりする