風のささやき

地中海に遊び

白い家々が 半島に貝殻のように住みついてる
海からは 宝石に色づいた波が
ものの時間を 忘れさせてくれる

たくさんのかもめを連れた 白い船が
どこか自慢げな様子で 通り過ぎる

やしの葉で編んだ 傘の下で
夕刻の穏やかな 潮風を浴び
僕は少し 眠ろうと思う
さんごの夢に 彩られながら

やがて人の いなくった砂浜の傘
片付けに 人がやってくるころ
近くの酒屋ではそれから 
楽しい 夜が始まる

陽気な笑いが響く 長い長い夜
海は海で 月を面に捉え
飽きることもなく

   ○

砂浜に落ちた 珊瑚の形見
かもめと供に 空にあった白い羽
どれもが僕の足に 踏まれて
小さな 悲鳴を立てていた

そんな僕の足の力
砂に食い込む足の名残
息を切らし 僕は走り
砂浜を 僕の足跡だらけに傷つける
そんな小さな抵抗も 毎日の出来事
海は柔らかな 波の舌で
砂浜を整え 朝日を迎えるのだろうか

   ○

波と 追いかけあう戯れは
童心の僕の心を 呼び戻す

背中を 落ちかけの夕日が 軽く焼いて
そこに染み込む 潮風に
背中には羽が 生えたように軽く
どこまでも 遠くへ歩き出したくなる

金色の 砂金のような陽射しは
波の届くところを頂に 僕に押し寄せて
僕は その波めがけて手を伸ばす
手のひらの中に 金色のものが
つかめる事を信じながら

幼心の幻想に 溢れている海は
懐かしい玩具に飾られた 揺りかごのように

  ○

Isn't it nice!
と 砂浜に残された文字
素直な言葉だな

いつの間にか気持ちのいい潮風に
Tシャツを脱がされて
そうだね
確かに僕も そう思うよ

たくさんの夜と たくさんの朝を飲み込んで
甘くなった波が 白い泡を吐きながら向かってくる

歯を立て そんな怖い顔をしても
その奥のほうでは 慈悲深い光がキラキラ
輝いて見えるから ちっとも怖くはないよ
波の上のヨットを 優しくあやしているのも君だし

僕もこれから 年を重ねていけば
君のように 甘い色彩を身にまとうことが
できるのだろうか
言葉の奥底には いつでも
優しいものを 光らせながら
 
  ○

寂しい 灯台のように
海の中に伸びていく 僕の黒い影
それが ほんとうの僕の姿のように見えてきて
僕は海の中ゆれる 海草のような存在なのか

誰かに 抱きしめていてもらわなければ
僕はそのまま 海深く
飲み込まれてしまいそうになる

  ○

ポセイドンのトライデントに
従順な海が吐き出す 小さなかけら
こわれた貝の 茶色の縞模様も
きっと神が この海のために定めた色彩

神に守られてあることの 平穏な海に
足を波に洗ったまま 抱き合えれば
足元にはいつでも 光彩が集いきて
波音が 声高に叫ぶ雑音を
綺麗に 打ち消してくれるから
僕らは 胸の内の
甘い高ぶりだけに 心臓を素直に高鳴らせ
終わらない 夢を見ていよう
ポセイドンが死に絶えるよりも 長い長い時間の