風のささやき

霧深い街で

夜の霧にむせて
白い咳を吐き続ける街では
歩く人影さえも亡霊のように揺らめいて
人の姿の実体を無くす

解き放たれて
闇に漂う人の情念は
深い針葉樹林を迷い傷だらけになり
顔をゆがませる咆哮には
庭先の犬たちも不安げに頭を抱える

生垣の柊も
緊張に実をますます赤く変えて
その葉が霜に縁取られて凍える頃にも
流れ星のイルミネーションは
沸々と消えることなく温もりを送り

その下に照らされると生気がこもり
血潮を取り戻す人の顔
傷だらけの皮膚さえもが
幻のように癒されて
白い息に乗せた感謝の祈りの言葉が
闇を震わせている

霧深い街の夜ごとの冷たさを
あなたの血潮が暖める奇跡を
祈る時分の敬虔さに
人の胸は打ち震えて

あなたの言葉をまた
枕元に復唱して眠る
何よりも闇から守ってくれる
刀剣のように胸に収めて