石畳の港に
腹に穴を開けた 土偶のような茜雲が 漂っている港町 (その穴を 飛行機雲が 縫いつける曲芸) 夕日の色をした 葡萄酒のグラスはどこか重く 肌にまとわりつく 潮風のテラスで 鴎の帰る方向を ものうく眺めている (ワイングラスにとらえられて 夕日は汗をかいている) よごれた白い皿には 飾らない料理 フォークを立てる僕の 酩酊は感傷を広げてゆく (やがてヨットは 夜の闇に捕らえられ 錆びた錨の重さに眠るだろう 青い波間の夢に揺られながら) 寂しさが胸を漂うのは ラジオの異国の言葉のせい 見ず知らずの旅先の晩餐 向かい合う席にはあなたがいない (魚くさい港町は 土曜の夜の活気にあふれ 薄暗い街灯が 石畳の路地を照らす) 僕の眠る部屋には やがて 酒の高ぶりと 紫の煙にむせ返る 騒がしい笑いが届くだろう (その汚れた いたたまれない笑い 寝苦しい僕はまた 取りとめのない夢に 苛まれる) ささやかな食事の後には 青い月が背中からのぼる テーブルに残る 冷めたコーヒーの苦みと 舌の上の葡萄酒の渋さが 星屑の異国の寄る辺ない夜に漂う