風のささやき

セビーリャにて

強い陽射しが 木立を影絵に変えて
風が吹くたび 黒い模様で
大地を 騒がしくさせている

細い通りに どこからともなく響く
哀愁を帯びた ギターの音色は
誰かの 声にならない叫びにも似て
いつまでも胸に 忘れられない印象を刻み

その音色に 共鳴しながら
ジャカランダが身に付ける 紫色の花は
重なり合おうとする 夢へと手向けられ

二つの思いが 溶け合ったカテドラル
オレンジの庭園を 静かに流れる水は
青い果実にまぎれ込み 黄色い酸味に姿を変えていく
素焼きの花瓶から 壁を伝うブーゲンベリアは
聖人の祈りへ その身を近づけようと

空の青さを のぞきこもうとする
風見の塔の ひんやりとした階段の長さ
ため息まじりに 登っていくと
尖塔には 風の力で揺らせない青銅の鐘
平和な午後を 迎えようとする街を
祝福の音色で 甘くしてしまうための

階段の方から 僕を追いかけ
急に 吹き上がって来た一陣の風
どこか真面目さに 汗ばんで
塔の先から 空目がけ
駆け上がって行った 最後は光の中に
抱きとられるように

あれは 一つになろうとする者たちの
僕に 見せようとした幻影
手を携え 溶け合って
青空の奥の方へと 昇華され続けている