風のささやき

夜(精進湖にて)

思い出したようにせせらぐ
暗い湖のむこう
大地から盛り上がる富士の
雪積もらせる裾野は
月影に青白く光る。

厚い衣服の上からも
身を引っ張る冷たい外気は
僕の口から白い息と
体からは縮こまる
動作とを引き出し、
多すぎる量の数を支えきれずに
空はいくつもの星を
その面からとりこぼし
一瞬引かれる線が
僕の目を傷つけ
どこかへと遠く
燃え尽きて行く。

人が寝静まった夜
呼びかける星と
風景に起伏する富士
青木ヶ原をめぐり
空に昇る風が伝える対話は
幾千もの夜を続き
人家に暖をとり
布団にくるまれる人は
寂しい夢にうなされて
それをきかない。