風のささやき

温かな一皿を

夕日に燃え立つ何もない麦畑に
白い霜が小波をたてている

冷たい北風が小さな町を飲み込んで行く
吸い込めば肺のそこから凍てつきそうな寒さには
なんの慈悲の匂いも感じられずに

冬枯れの木立の悲しみが
次々と僕に向って倒れこみ
僕の足元さえも覚束なくなるから

広場に体を丸める鳩は
今日は何処に羽を休めるのか
すべてのものの影が
細長くなる石畳の広場には
なんの暖かさの欠片も啄ばめずに

やがて街灯と家の窓の明かりが
寒い舞台の照明となり
我が物顔の寒さが独り
うねりを上げながら演舞を始める

夜の市場を飾る華やかさは束の間のもの
赤いトマト、ズッキーニ、なす、セロリ、タイム
色とりどりの食材が食卓のために捧げられ
熱いオーブンの中で
心温める一皿に変わることを欲する

その周りにはどんな笑顔が集うことだろう
笑い声はこんな寒い夜から
身を守ってくれる
力強いお守りのように胸に居座り

旅人の僕一人だけが帰り遅れて
暖かな居場所を見つけられず
北風に生け捕られたまま
温かなスープの一皿を恋しく思っている