風のささやき

暗がりに

家の中ではほっと息をつく
薄暗がりの中で
人はようやく人としての輪郭を取り戻す
永遠に続くと思われる
太陽の強い眼差しの監視から逃れて

こっそりと拵えた噴水の祭壇
閉じられた空間に立ち込める水の匂い
波紋は水の調べ
繰り返す心地よい単調な耳触り
落ち着きを取り戻す肌が安らいで
ようやく横になって一息をつく

眺めていた
側にいる人の瞳には
不思議な色の湖が宿り
穏やかに細波立ち姿を写し取る水面
青い炎を灯した蝋燭の静けさ
太陽に消されていた微笑のニュアンスが
口元の印影から浮かび上がるときに

囁く言葉もそれぞれの熱を帯びて
潤いを取り戻した唇から零れる
吐息にも濡れ
瞳に蘇る涙を舐める舌の喜び

時間を忘れさせてくれる静かな抱擁を
太陽から逃れた
月と星とが見守ってくれる

誰の瞳も届かない暗がりの中
静かな営みにあることの喜び火照りに
ひんやりとした空気が手を当てる

取り戻された心臓の鼓動が
規則正しく波打ち
沸き立っていた血潮が鎮まる
それは体に溢れた清冽な湧き水だった