まいにち
こころ
倦む日々や生きて良いかの逡巡も退屈しのぎのパズルに思え
頑張れる訳を探せばお蔭さまお互いさまで生かされていて
子供らと遊び尽くして草の香の遠い記憶に結ばれる夕
あみだくじ白いゴーヤが参加賞その人も去る定年迎えて
生きられた今日も無駄にし何をしたビルの向こうに遠い空見た
毎日は煩瑣な出来事襲い来て往々怖くも楽しきときあり
立ち尽くす間も無く追い抜く時知るも息切れ終えず今年も尽きる
若き日の希望に描いた自画像はなに足せば成るくすみゆく色
桜散る池の水面の混雑や船頭ゴツンと向かう先無し
短冊の願いすべてが叶うならそれで安らかこの星なるかな
結ばれて二人でいられる幸いに重ねてたくさん花笑む毎日
うなずけぬ暮らしにしたり顔をして日々に打ち消す胸の軋みよ
春の夢答えは無いと祖母告げる許し優しく泣いて目覚める
祈っても叶わぬことは知りながらなおも祈れる心覚えり
曇り空急いで作るテル坊主遠足の朝これから弁当
大量に届いた野菜出来が良く元気に過ごす便りの代わり
母の母その手の編んだ膝掛に母の子の子は包まれ眠る
夜の駅 酔い人歌う恋の歌下手でも会いたい気持ち伝わる
引越しや床拭く毎に思い湧き離れる部屋にありがとうを言う
荷造りを終えた頃から実感し寂しく見送る運ばれ行く荷
夢を見る終った時の続きから思い出そっと書き換えている
携帯に酔った声あり去る人の嬉しさ寂しさ何回か聞く
目が合った老婆の瞳に春色の穏やかさあり生き永らえた
一人だけ圧力鍋は仕事して怒りあらわに昼寝の合間
温かき夢の名残に目覚めれば胸の痛みの和らぐを知る
手を止めて黄ばむ詩集を繙けば若き涙に濡れられるかな
浅智恵と嗤う我にも智恵はなし団栗背比べ人の世暮れる
白い息吐くごと鎮まる胸の内生の妄執このまま眠れ
引越しや捨て去る物の数多くいつしか降り積む生活の澱
サルビアの花の赤さは若き恋燃え上がり枯れ果てるまで
短冊の願いの果ての今の我誇らしくもあり寂しくもあり
ジャスミンにつわり和らぐ一息をつける公園君と逃げ込む
古き歌 口ずさんだら古き恋 甘酸っぱくて 古き面影
城壁にもたれる冷たさ背にありぬ何百年もの冬の仕来り
瞬いて星は迎える ちっぽけな僕も宇宙の一人であること
すりきれたボロの心と思いしも欺くとことなく朝の陽は触れ
けしき
踏切に足止め見上ぐ茜雲遠き旅路を自由にたゆたふ
久方の故郷の空や仰ぎ見る押され続けた憧れの印
プラタナス広げた手数多雨打つも空引き寄せる憧れに伸ぶ
土蔵にはひんやり動かぬ季節住み炎昼から逃げ夏を忘れる
月光が煌めき窓辺妖精の笑うベンチに衣替えする
あちこちで雨の奏でる楽器ありビル車傘街路樹紫陽花
眠れない 雨は拳を振り下ろす部屋を出ろとの抗議続ける
紅葉と陽光の境どこにある一本の木だ後光差してる
笹の葉に切れた指先一文字赤き血捧ぐ無垢の山肌
次々と浮かぶ人いる彼の土地の爪跡激しい駆けつけたい今
一人身の静けさ埋める水注ぐ月桂樹の葉身もだえを見る
子供まね風がシーソー押そうとす 僕と遊ぼう押して手伝う
雨一つ忘れた頃に僕の頬に次はどこへと生まれ急ぐか
障子透く裸電球ほの赤くゆかしき童話聞く心地ぞす
航路から零れ落ちてく白き泡時間をなぞりやがて黙する
言われある島の名前やそれぞれに言霊こもり潮風震わす
水やれば葉を光らせる鉢植えに冷とりに来る名も無き羽虫
雨あがりどの水たまりにも丸い月ほっと明るい家路のしるべ
銀色の魚群いつしか見失い空に彷徨う鴎たち
穏やかな僕の瞳の野の花よ恋人に会うがごとくにうれしくて
眠れない 雨は拳を振り下ろす部屋を出ろとの抗議続ける
とかい
6時過ぎ通勤列車の倦怠は飼いならされた首かせと重い
テレビからニュースを伝える無表情その無関心に感染している
街路樹の切株はだ色かたな跡年輪断ち切る誰の暴力
耳の奥いつでも騒ぐ声がある人の喧騒それとも妄想
夜8時からくり時計の演奏は人波止める手土産となり
昼終わり時間に縛られ戻り行く仕事場のビル時に牢獄
ポスターが桜盛りの駅にいて無計画な旅行きたくている
何時の間に此処に置かれてゴール無き人とぶつかるゲームに追われる
建てかけの200メートルのっぽビル夏雲遥か空なお遥か
真夏の夜あなた溶け込む夢に汗戻せない距離手を差しのばす
沢山の黒い瞳がのぞき合う街に一人だ俯いて行く
紫蘇の葉が冬に伸び行く陽だまりは廃墟のビルの花壇なりけり
目覚ましに脅され起きるアラームに飼いならされる僕の毎日
また人といて気詰まりを感じてる外の空気がやたら恋しい
生活に精一杯のタクシーに終電のとき問い詰められてる
突然に切り倒された街路樹に陽射しまぶしい人は身勝手
地下鉄に閉じ込められしかなぶんの救い請いたる緑の背中
差し入れは仙人掌なりたて店長に客いないとき話せば育つと
吸い殻にまみれる白き水仙よ声なき花の悲しみの色
頭から闇に飲まれる鉄塔や怖くないかい消えて行くのが
いつの間に伸びてる髪を切る席の鏡の中の萎れた自画像
沢山の視線ねっとり蜘蛛の糸吊られ縛られ食われる心
首締めるネクタイよりも窮屈な暮らし逃れる術いま知らず
車窓から迷い込み蛾は手で追われ人ゴミを舞い命細らす
青ざめて心は悲鳴をあげるのに囚われの身で夜のつり革
携帯のカメラに負わす目の記憶心の襞に残るものな
起きている者の瞳の物憂さよ夢見る者は静かな寝息に
青ざめた群衆日々に心踏みいつしか僕も群れにつながる
人ごみで肩がぶつかる背を押され寄る辺もないや弾きだされる
ため息に少しの力抜ける肩初めて見たよな街灯り
悪い夢頭の芯にまだ残る哀感朝日もかみ砕けずに
多忙とはよき玩具かな戯れて見ないふりする胸の違和感
ちんこん
異国にて鳴く虫もいる縛られた地に恋い焦がれ土くれとなる
仮の世の姿を離れ行く人や告別の雨紫衣の朝顔
雪景色嗚咽の涙読経も丸めて静か沈黙の技
別れ言うそれがこの世の定めとて照葉や真に別れ難いぞ
一人落つ早熟すぎる落ち葉見る染まった紅は吐く血と見まがう
この友にあなたがいたから出会えたと深々謝する弔いの場に
母消えた死との境目どこにある伝えたいこと胸に余って
母消えた境目いずこその先を暗い夜の底捜しあぐねる
一周忌知らせる葉書舞い込む日 面影忘れる自分が憎く
亡き母の手紙に泣ける言葉あり古き便箋潤みて読めず
亡き妻の形見を整理する人の思い出の酒ともに舐めてる
残されし者の涙や生きてこそ笑う日もある生きてこそ