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横幅の広い信号機

速度信号

信号についての5.及び6.に続く、3回目のテーマとして、地上式・色灯式信号機について、日本との違いについて紹介します。

図1や図2のような、横幅のある信号機を駅で見かけることがあるかと思います。このような信号機が必要となる理由について、踏み込んでご説明したいと思います。

なお結論を先に申し上げあると、『「ヨコ」向きなのは、予告信号』という話を展開します。旅行に行くと出発信号機は必ず見かけますので、このダジャレだけでもご承知おきいただくと、話のタネとして役立つ(?)と思います。

【図1】閉そく信号機(上)と、予告信号機(下)[スイス]
【図2】予告信号付き出発信号機[ベルギー]

ちょっと話がそれますが、スイスは、「RAIL2000」というプロジェクトで10年ほど前に大きく信号システムや運行体制を近代化したもので、「スイスでは毎時00分に特急が発車するようにした」等のダイヤの見直しが着目されておりますが、それができるようになった背景事情の一つですのでスイスの信号を例にご紹介します(※各国で信号機の見た目は全然違います)。

予告信号機とは

 

予告信号機とは、この1つ先の閉そく信号機の現示をあらかじめ運転士に予告するものです。
もし次の閉そく信号機が「赤」だとすると、列車はその信号機までに止まらなければなりませんので(通過してしまうと、前方列車と衝突の危険がある)、減速等の準備をさせることを狙っている信号機
です。

見た目は各システムで違いますが、図3のように、細長い信号機が閉そくのための主信号機に対して、1対1で対応する形で予告信号機も決まっています。
スイスの場合には右側半分に黄色が見える場合には減速に備える必要があることが意味されるように配置されています。

なお、予告信号機に一緒に閉そく信号機が配置されていて、それが「赤」の場合には次の信号機の情報は無意味ですので、滅灯します(図3下)。

【図3】主信号である閉そく信号機と、予告信号機の現示の対応(一部)[スイス]
 

予告信号機が必要な理由

一方日本の場合には、予告信号機(中継信号機又は遠方信号機)は、(1)見通しが悪い箇所 (2)閑散線区用 ・・に主に使われています。(2)の閑散線区用の使い方は、同じようなものが欧州でもみられます。これについては後述します。

日本の場合、上記の用途以外では、次の閉そく信号機を予告するための特別な信号機は不要です。なぜならば、日本の場合、ある閉そく信号機が下の図4のように「注意(黄)」だとすると、その次の閉そく信号機は下位の「停止(R)」又は「警戒(YY)」のような、速度を抑える現示(下位現示)になるため、予測がつくためです。そのため、わざわざ予告信号機を設置する必要がありません

【図4】日本の例

ではなぜヨーロッパで予告信号が必要なのか、という点について。

それは、閉そく信号機が分岐器の制限速度の指示にも使われるためです。 

下の図5の各図は、出発信号機が「R(赤)」の、ホームが3本ある駅に到着する列車のイメージの図です(なお連動駅への到着で作図していますが、駅間であっても同じです)。
 で、駅にある次の閉そく信号機はどの図の場合も「R(赤、停止)」なので止まらなければならないため日本であれば、一つ前の閉そく信号機は減速を促す「Y(黄色、注意)」あたりになりますが、この例の場合には到着番線によって分岐器の開き角度が違うために、目の前の閉そく信号機の現示は分岐器の通過上限速度を示す信号になります。この点が日本との相違です。番線によっては、「G(青、制限なし=160km/h)」(図5-3)のときもあれば、「YG(黄青、40km/h以下を指示)」(図5-1)の時もあります。
 もし予告信号機が無いと、次の閉そく信号機(=出発信号機)が「R(赤)」だと認識できないので、最悪、ブレーキを扱っても停車できない可能性が生じます。

一方、日本では分岐器については、運行上のルールと、現場の速度制限標識の合わせ技で、より低い速度で運転するため、分岐器に関する速度制限を色灯式信号機に現示する必要がなく、一つ先の信号機の「R(赤)」を踏まえてこの場合、「Y(黄)」か「YY(黄黄)」になると思います。

こう聞くと、「次の閉そく信号機の「R」であることを踏まえて「Y」か「YY」を現示する日本の信号機の方が賢い」と感じると思いますが、欧州の場合には速度に関する情報は信号機に集約(「スピードシグナル」)しているものの、日本では信号機は進路の安全(「ルートシグナル」)は示しますが、適正な速度については運行ルール、速度制限標識の視認、といった異種のものの合わせ技で、運転士の技量によって必要な速度を算出して順行している、とも言えます。

なお、図5-1中の青書き(出発信号機が分岐器の外方にあること)に関しては、別のページ(5.小ネタ)に記載します。

【図5-2】R信号の手前がGG信号(60km/h指示)の場合
【図5-3】R信号の手前がG信号(160km/h指示)の場合

上述のように、分岐器の制限速度も、閉そくに関する情報も同じ信号機で運転士に指示を出すことが「分かりやすい」と認識されています。このように、速度に関する情報を信号機で指示しますので、分類上、「速度信号機」と呼ぶことができます。これに対して日本の信号システムでは進路を指示しますので「ルート信号機」と分類されます。

なお上図の場合で、もしブレーキが間に合わないような短い駅の場合には、ブレーキ距離不足を示す場内信号機又は現示がより低速になるように措置されます(後述します)。

速度を数字で示す速度信号機

下の図6は、出発信号機も兼ねている速度信号機です。斜めに飛び出した形状が特徴的です。

飛び出した部分は黄色の灯色です。飛び出した黄色の灯色とすぐ左の青い灯色が並ぶと60km/h、この両方が点滅していると90km/h、斜めに2つ並んだように黄色の灯火が付くと40km/h・・というように、横や斜めに表示することで次の信号機に備えた運転速度を指示しています。信号機の上に「6」や「9」のように、LEDを使って数字でも速度を表示するタイプもあり(スイスにもあります)、この写真の上側の黒い板のような部分に表示されます。この表示は4ですので、分岐器の通過速度が表示されているようです。

欧州では、信号機柱には指令電話も備え付けられていることも多いです。現在はGSM-Rなどの列車無線導入が進んでいますが、列車無線が少なかったころには信号機故障が疑われる状況(赤のまま変わらない)には列車から運転士が降りて、信号指令員と電話で話した上で、徐行で進行していたためです(フランスでは、低速で進んでよい「赤」信号と、決して進んではならない「赤」を使い分けています(後述)。

この節の冒頭で記載した、「閉そく信号機を兼ねる速度信号機」という意味ですがベルギーでは信号機柱に黒い●マークが付いている信号機は、permissive signal(閉そく信号:block signal)を兼ねる速度信号機であることを意味しています。「●マーク」のない純粋な「速度信号機」は、主に駅間で用いられています。この考え方を踏まえると、日本の信号システムの閉そく信号機は、速度信号機を兼ねた閉そく信号機であり、遠方信号機は速度信号機である、と言えそうです。

【図6】閉そく信号を兼ねた速度信号機 [ベルギー]

進んでよい赤信号、進めない赤信号

フランス等では、分岐器の手前にある信号機のように、赤の場合には絶対進んではならない信号機(Nf:Non franchissement、超えられない、の意)と、閉そくの安全が確認できる条件下ならば赤でも徐行(15km/h以下)で進んでよい信号機(F:Franchissement、超えられる)が使われています。

赤2灯か赤1灯の違いがありますが、信号機柱に、この区別が表示されています。
 赤1灯の信号機は閑散線区に建植されており幹線では見かけませんが、有視界で安全を確認しながら進める場合には、実際に進行できます。日本でも、指令に確認後に指令の指示下で同様の運転が行われる場合はあります。一方、赤2灯の信号機は、幹線です。軌道回路長は数百m〜2km程度の比較的短い区間に適用することとされています。

【図7】2種類の赤信号(Nf)と(F)

フランスの速度信号機、予告信号機

図8はフランスの地上色灯式信号機です。分岐器の直前のものが分岐器に対する速度信号機です。左半分が閉そく信号機として次の信号機を予告しており、次の信号機がより下位(赤など)の現示になる点では日本と同じです。右半分の飛び出た部分が分岐器に対する速度信号で、30km/h以下を指示しています。上述のスイスのものと比較して、日本に近い感じの機能をもっています。

同図中、分岐器からより離れたほうの信号機は、その分岐器に対する予告信号機です。予告信号機は灯火が横並びになっています。

【図8】分岐器に対する速度信号機・閉そく信号機[フランス]

フランスの遠方信号機

図9はフランスの遠方信号機の例です。日本と同じく地方線区で用いられています。同図の下半分の日本については、「特殊自動閉そく式」(駅間に軌道回路がないもの)で作画しておりますが、駅間に長大な1つの軌道回路を構成する「自動閉そく式(特殊)」の場合もありますが、簡略化のために図を省略しております。

【図9】遠方信号機を使った信号システム[フランス地方線区]
【図10】A信号[地方線区]

まとめ

速度信号機は、閉そくの状況を踏まえつつも、分岐器の速度制限も含めて通過可能速度等を指示する信号機です。

半面、次の信号機の現示が予測しずらくなるため、予告信号機も使われます。また、左半分に閉そく信号機・右半分に分岐器の通過速度表示(フランス)というように情報を増やしています。

一方日本では、閉そく信号機の現示の状況から、次の信号機の現示が予測できます。便利ですが速度の指示が信号機と標識、というように情報元が複数種類に分かれてしまいます。また、日本は高密度に運転されるため、軌道回路割が細かく、欧州よりも信号機の現示種類が多い傾向があります。