次に進む

1つ戻る

運行の責任者

上下分離とオープンアクセス

乗務行路表

行路表とは、列車の乗務員の担当する列車の乗務予定を指定した行路表です。どの駅(車庫)から乗り、どの駅にいつ停車していくかが記載されています。

日本ではまだ多くの鉄道事業者さんは図1のような紙のものを乗務員さんが携行しています。

【図1】乗務行路表(日本・紙のもの)

首都圏(JR東日本さんや大手民鉄さん)では、運転席にある車両モニタ装置(TIMS、TICS)に列車ダイヤを読み込んでいますので、もうこの図1のような紙の行路表は見なくなっています。

より具体的には、運転士の場合運転士のICカードに、当日乗務する行路の各列車の運転時刻等のデータが書きこまれており、これを乗務区で受け取ります。もし運転士さんが3列車乗務する場合は3列車分が書きこまれています。このカードを、車両モニタ装置のカードホルダに置くことで車両モニタ装置に読み取らせます。ですので、媒介するものが紙から電子データに変わったような形で運用されています。

欧州では、後述するように、無線で列車の車上装置にあらかじめ読み込ませ、列車がデータを持つようになっています。

運行の責任

さて、欧州の幹線系の路線は、オープンアクセス政策により運行枠を購入している鉄道事業者が列車を走らすことができます。そのため、さまざまな会社の列車が同じ路線を走行しますので、運転士への行路表の配布や列車が遅れた場合の運行調整には、多数の会社が関係します。
 日本でも相互直通運転が広く行われていますので、遅延の場合の影響度の大きさは欧州の比ではありませんが、同じ線路上の前後に「他社」の運転士・列車が居るわけではありませんので、このような運行の責任については違いがあります。この点について紹介したいと思います。

はじめに、欧州ではオープンアクセス政策によって一般的にはインフラ管理者(Infrastructure Manager)と鉄道運行事業者(Railway Operator)とに上下分離されていることご承知おき下さい。

行路表の配布者

各運転士に乗務前に、シフトに従って乗務区において運転する列車が通知されます。また、工事等の伝達事項も通知されます。これは日本と一緒です。

日本と異なる点としては、その際にアルコールチェッカーによる呼気チェックをしていないことかと(国によっては行っているかもしれません。日本も当たり前すぎるこのチェックを義務付けたのは2010年です)。簡易的な呼気チェック機は、1年又は1000回測定毎に交換する必要があるため、結構高価になります。

で、本題の、乗務する区間等や行路表の配布についてです。図2のような乗務行路表の配布は、運転士さんの所属するそれぞれの鉄道運行事業者が行いますオープンアクセス事業者さんの運転士さんには、その所属鉄道運行事業者経由で行われます。路線によっては、上下分離した旧国鉄系鉄道運行事業者さん、旧国鉄系貨物列車会社さんに、オーブンアクセス事業者さん(旅客や貨物会社。数社くらいです)、英国では運営権を売る「フランチャイズ」も行っていますのでフランチャイズ事業者さんの列車もやってきます。

計画ダイヤ通りに走行している限りは、何社走行していても問題は起きないのですが、このうちの1社の列車が遅延するような場合には運転整理が必要となります。

 ※ただし途中駅の着発時分等については、後述するように電子時刻表システムにより列車無線で車上装置に一斉配信されています。

 

【図2】一日分の乗務行路表(4列車が掲載)

 

ある線路を走行する鉄道運行事業者が複数あっても、各鉄道運行事業者が列車の運行枠(train path)どおりの時間に運転ができている間はこれで何の問題もおきませんので、定時運転が行われている限りは、各鉄道運行事業者がインフラ管理者(線路管理会社)と遅延情報や列車の遅延の予測情報を、事前に決めた特定地点(駅)毎に報告する取り決めに従い(取り決めておくことは貨物テレマティクスTSI(TAF TSI)に規定されています。旅客鉄道にも、TAP TSIから、passengerに読み替えて適用されることが規定されています)、連絡をしていればいいだけになります。

しかし、列車の遅延が発生した場合は、この取り決めによる情報からインフラ管理者のオペレーションセンターにおいて、列車遅延に対する対応を始めます。次の項に記載します。

 

列車運転整理の仕組み

列車遅延が発生した場合には、関係している鉄道運行事業者に対して着発時分変更や、列車運転順の変更等の運転整理が必要となります。欧州の場合、遅延状況の把握や整理はインフラ管理者のOCCの役割になっています。

前述のとおり、インフラ管理者は、その路線を走行する全ての鉄道運行会社との間で、遅延情報や列車の遅延の予測情報を、事前に決めた特定地点(駅)について報告すること等を取り決めています。また、何か障害が発生した、という情報もインフラ管理者の事前に取り決めた連絡先(メールアドレスの場合も多い)に寄せられます

この情報からインフラ管理者のオペレーションセンターは列車遅延に対する対応を始めます。こんなことまで決められているのか、と私が思ったのは、列車が遅延した場合、ある区間(パス)の起点時点で3時間までの遅延ならば運行できるように努力することが規定されているのですが、遅延が3時間以上になる場合は、ダイヤは保証しない(鉄道運行事業者の責任で運転を打ち切れ、という誘導?)ということです。(フランスの場合のルール(RFN-IG-TR 04 C-01-n°001)です(第205条)

鉄道運行事業者には、オープンアクセスに基づき当該路線に入ってくる鉄道事業者もあれば、旧国鉄のような大口の会社もありますが、上記のインフラ管理者との取り決めに基づき、路線の他の列車の遅延情報や、運転整理情報が提供されます(鉄道運行事業者がさらに別の運行会社に列車運行を委託している場合には、まず元請け会社が情報を受けて、委託先に連絡する責務をもっています。)。鉄道運行事業者はこの、インフラ管理者による仕切りに従い、新たな運転順序・スケジュールにて列車を運転しなければならないとされています。

現状の欧州での電子時刻表配信システムは運転整理には対応していませんので、OCCと列車の音声通信や共通フォーマット(英語)での通信により運転整理をしていきます。この点日本の方が様々な運転整理支援システムが開発されており、同じ運転密度であるならばダイヤの正常化も一般的に早いと思います。

とはいえ、フランスの場合ですが、鉄道運行事業者(フランス語ではEF)、インフラ管理者の双方に、ダイヤや設備の変更等の情報を授受するシステムの導入や、変更情報の送付先、列車の運行情報の管理義務等を定めています。元文書は、こちらです(DOCUMENT DE RÉFÉRENCE DU RÉSEAU FERRÉ NATIONAL Horaire de service 2023 Version 1 du 10 décembre 2021)。この中でも6.1.3〜6.1.4あたりです。ほかにも、列車在線位置を旅客に知らせるサービス(後述します)用のSPIDシステムの加入等、列車位置を知らせる仕組みの普及が急速に進んでいますので、駅で遅れている列車を待っている利用者の目線でからみると、欧州の列車位置が分かるものの方が高く評価される可能性は感じます。

 

列車の時刻表システムの電子化

現在欧州の国鉄系の路線では、列車の車上装置に対して、列車運行計画データに基づいたどの駅に何時に停車するか、という電子時刻表が全列車に無線で通知されるシステムが使われています。

例えば「EBuLa」はドイツ鉄道(DB)のダイヤ配信システムなのですが、毎朝、全列車に無線(GSM-R)により車上装置に電子時刻表が送信される仕組みになっています。

しかし、無線につきものの、車上装置等の不具合でダイヤの読み込みがうまくいかない場合には、乗務員から、インフラマネージャーの設置するオペレーションセンター(又はコンタクト拠点)に、印刷した当該列車の行路表を要求することや、故障の度合によっては上限時速40km/hで走行することが規定されています。

日本の場合は冒頭に申し上げました乗務員カードの情報を読み込ませていますので、似てるといえば似ていますが、確実なデータ把握の観点がちょっと違っています。

 

また、従来は、国鉄1社がほぼ独占していた路線を、現在では多くの様々な国の貨物会社、旅客会社、インフラ管理会社や車両保守会社が入り乱れて参加するため、制度設計を行う欧州鉄道庁との国別の連絡窓口及び制度の周知の場としてて、関係者によるNCP(TAF / TAP National Contact Point)が構成されなければならないことになっています。

アルコールチェッカー