欧州の鉄道技術・日本の鉄道技術
【欧州指令】1-TSI、評価モジュール


※アクセスされている方の多い、鉄道関係の欧州指令一覧こちら(No.11)です。ご利用ありがとうございます。

鉄道運行事業者

湾岸諸国や東南アジアに普及しつつある欧州規格。それらの元になっている欧州法令について紹介します。安全品質管理など、日本の鉄道への影響も生じはじめていますよ。

インターオペラビリティ指令について

オープンアクセス、性能規定化、評価モジュール

インターオペラビリティ指令(欧州法令番号は2008/57/ECだったのですが、2016年に全面改訂され、(EU)2016/797になっています。11.にて後述します。)は、鉄道が相互運用可能になるようにするための欧州法令(法律)で、欧州統一仕様(TSI)は、この指令の第4条に基づき制定されているという関係です。

「インターオペラブル」という概念は、技術基準を統一するだけにとどまらない、欧州連合加盟各国を挙げての交通・産業政策の競争力を高める政策になっています。

はじめにその話から紹介します。

民営化とオープンアクセス、フランチャイズとの違い

 欧州では公共交通機関はほぼ赤字です。これを自由競争を行わせることで効率化し、発展を進める目的で、1991年に「欧州共同体の鉄道の発展に関する閣僚理事会指令」(91/440/EEC)が制定されました。「閣僚理事会指令」などの「指令」とは、欧州委員会がEU加盟各国政府に期日までの各国国内法化を義務付けているもので、事実上法律と同等の強制力があります。

この欧州指令により、国有鉄道の民営化上下分離が進んだほか、旧国有鉄道には運転ダイヤの開放(販売)することも合わせて要求されました。これを、オープンアクセスと呼んでいます。詳しくは31.オープンアクセスを参照ください。下図(右)ではA,B社のように国鉄が上下に分割され、かつX社が参入してきています

高速鉄道線ですら、オープンアクセスの対象となっています。例えばフランスのTGVですがリンク先(2022年のIRJ誌の記事)を参照ください。

【図】オープンアクセスの概念

なおイギリスで行われている「フランチャイズ」と、この「オープンアクセス」は異なります
 一定期間の経営権を契約し、運営権を持つ期間の利益又は損失を運営者が得るのがフランチャイズ(TOC)です。一方オープンアクセスは、(法律上の安全要件を満たす鉄道運営者であれば)、空いている列車運行ダイヤを購入し、他社の路線に列車を走行させることでその列車の運賃収入を得ることができるようにする制度です。

一般的には旧国鉄系鉄道事業者さんが持っていた路線網の空いている時間に、新興の民営会社の列車や、他国の旧国鉄系の列車等の大小さまざまな会社の列車が入ってきます。

旅客営業大手では、Arrivaさん、MTR(香港)さん、Transdevさんが著名です(ドイツの旅客鉄道事業者リストはこちらです)。

航空分野では新興の航空会社さん(LCX)が東京−札幌等、各地で営業されていますが、このような感じにJRさんの主要幹線にJRさんとは全く縁がなさそうな会社名の列車が時折発着しているイメージでお考え下さい。このような列車を、安全性を守りながら既存鉄道事業者さんに相応の対価により受け入れさせるための一連の仕組みが、オープンアクセス政策です。

例えば、鉄道事業者のインターネットサイトで列車を検索をすると、下図のようにDB(ドイツ鉄道)とは別の鉄道運行事業者(この場合、FLX社)の列車が表示される場合があります。この列車は、この時間(スロット)の運転ダイヤがDB(ドイツ鉄道)から運転ダイヤ(スロット)が販売され、買った会社が独自の列車、独自のサービス、独自の運賃で運行します。旅客にとっては鉄道会社の選択の幅が広がりますので、鉄道運行事業者のサービスの競争を促している訳です。

ちなみに下図は満席が予想されるクリスマス(12月25日)について、その1日前に価格を調べてみたものです。さすがに多客期だけあってDB(ドイツ鉄道)ではまったく割引が設定されておらず100ユーロ超しています。一方、FLX社の運行する列車を調べてみると24.99ユーロ。ここまでの値段差がありました。

オープンアクセスにより参入した鉄道運行事業者の中には、GO貨物、と呼ばれるような小規模貨物事業者や、機関車1両で営業している個人営業的な貨物鉄道運行事業者もあるそうです。この政策が成功するかは分かりませんが、やる気がある人にどんどん競争させる、というのは効果があるようです。

【図1】スロット販売されている列車

余談ですが、ドイツにはこのような鉄道事業者には以下のような会社があるのですが、都市間輸送や観光地までの長距離輸送を行っておりドイツ鉄道より安いことが多いので時間を合わせると安く移動できると思います。長距離バスやドイツ鉄道との競争環境が厳しく、撤退も多いため、現時点(2020年3月31日)のものを紹介します。

なお国鉄系会社さんも、取られるばかりではなく、事業拡大に使っています。ドイツ鉄道さん自体も、欧州14国で、オープンアクセス事業者として営業する一方で、地域交通路線の運行は様々な鉄道事業者が運行するように変わっています。ドイツの鉄道事業者リスト(74社)はこちら路線図はこちらです。

(出典)Eisenbahnverkehrsunternehmen所属社から、2020年現在の主な旅客運行区間を記載

ルール統一化の途上

オープンアクセスすることを決めただけでは、他社の線路に列車が乗り入れていくことができません。それは、信号システムやインフラ、運転ルールや、国によっては法規制や安全性審査の方法が違うためです。

その点、欧州ではやや乱暴ですが、Interoperability指令((EU)2016/797、2016年の全面改正までは2008/57/EC)という欧州指令に基づき、TSIという共通の鉄道技術基準をまず決めています。とはいっても、これまで各国ごとに事なる鉄道技術基準やインフラだったため、適合しない国・路線が続出してしまいます。日本的に考えると、そんな統一ルールはとても決められないか、例外ばかりの規則を作ることになりますが、欧州では、共通のTSIをまず作ってしまい、徐々に時間をかけて統合していこう、という「まずやってみる型」の考え方を採っています。ところどころうまくいかない点は、微修正が加えられています。

技術基準だけではなく、既存のインフラシステムの情報も必要になります。乗り入れられる側にとっては、入ってくる列車が自社と同じ水準の車両保守がきちんと行われ、その国の安全規制を守っていることも安全のためには必須です。

150年以上歴史のある各国の鉄道インフラは様々で、車両は各国の国境をまたいで移動していく列車にこうした共通化を進めていくため、欧州鉄道庁では、下表のような、様々な体系的な登録・管理システムを開発し、関係団体が管理を行って各国のNSA及び欧州鉄道庁の管理下においています。このような、標準化を進めるための土台となる情報システムの整備にお金かけていることも欧州鉄道庁の特徴です。

こうした欧州域内のルールの共通化を進めていくために、これまで各国の運輸省が持っていた鉄道監督権限を、徐々に欧州鉄道庁(ERA、又はEUAR)に集約しているところであり、年々欧州鉄道庁と各国運輸省の権限は変化しているところです。このページを執筆している現在(2019年1月)では、従来欧州鉄道庁と各国運輸省の両方に申請していた「SMS:Safety Management System」という、日本でいう各鉄道事業者が作らなければならない実施基準と安全マネジメントシステムと運転取り扱い基準を足したようなものの認可が、欧州鉄道庁に一元化され(single safety certifications)ました。また、新型車両の型式登録(ERATV)が欧州鉄道庁への申請に一元化される改正が行われたところです。実際の審査は各国運輸省へ回覧されるのですが着々とERAの力が強くなっています。

【表1】情報システムのEU域内共有化
  登録システム名  概要
ERADIS 安全性認証に関わる、証明やサブシステムの適合性に関する事項のデータベース
ERATV 認可(Authorise)された鉄道車両型式の登録データベース。例 Euro4001の場合
ECVVR 市場投入が認可された個々の鉄道車両の登録システム。EU加盟各国が運用するEVR(下記)を統合したもの。
EVR 個々の鉄道車両の登録システム。旧NVRのデータフォーマットを統一したもの
VKM 車両保守者管理システム
RINF インフラ形状の登録システム
ERAIL 鉄道事故情報の共有システム
SAIT(Safety alert IT tool) 鉄道関係者が、機器や技術に関する安全リスクを登録し、共有するシステム
SRD 各国特有ルール(NNTR)など、欧州鉄道庁と各国行政機関との通知が必要な事項に関する共有データベース。2020年まではNOTIF-ITというシステムでした。
10 RDD 鉄道車両に適用される、加盟各国の規則の検索システム
11 CCM 欧州統一信号システムであるERTMS及びその詳細仕様に対する、改正要求を登録するデータベース

上の表の各項については、この後のページで述べていきます。
 情報共有あってこその欧州技術仕様の統一、欧州横断ネットワーク(TEN-T)の実現が可能ですので、運転免許、SMS、車両保守、車両型式等、さまざまなもののところでこれらが関係しています。

技術基準(TSI)による統一的性能規定化

欧州での鉄道技術基準はTSI(Technical Standard for Interoperabirity)と呼ばれるものであり、後述するように、行政機関が安全性審査をする前に、民営又は行政機関が運営するNoBoと呼ばれる第三者機関が適合性評価を行うことが決められています。


※【補足】「上記のTSIのリンク先の中の、最新版のTSIはどれなのか?」 と聞かれました。
TSIは「Energy」「Infrastructure」などの分野別に定められています。例えば「EnergyTSI」(ENE TSI、動力や動力源に関するもの)を開くと、下の補足説明図のように表示されると思います。 Energy TSIは、欧州法令の「(EU) 1301/2014」という法令のANNEX部分が本文です。法令ですので、読む上では 「
Guide for the application of the ENE TSI (EN) 」が読みやすく概要をつかみやすいのですが、改正を溶け込ませた最終版は「Consolidated version」で読むことが可能です。
  

【補足説明図】TSIの最新版の探し方


補足 その2

上記の法令リンクを開くとさらに表示される「EUR-Lex(欧州法令検索)」の画面の見方が分かりにくいという趣旨の指摘を受けていますので補足します。

要点については下図を参照ください。

制定時から最新版まで、改正経緯を追っていくことができるようになっていることと、さまざまな言語で官報(ジャーナル)が見られることからちょっと独特な画面になっております。欧州法令には有効期限が定めてある場合が多いため、日本と違って失効(法的作用が無くなっている)ことが明確化されており、使い慣れると結構ありがたいです。

なお、余談ですが、フランスやイタリアなど大陸法諸国は、法令を引用する場合に官報のページ番号を引用するのが一般的です(法令から法令を引用する時には法令番号です)。法令番号「(EU)2016/797」ではなく、「OJ L 90,6.4.2018,p66-104」と表現するような形です。その習慣から、官報(OJ)番号も書かれているようです。

【補足説明図2】欧州法令検索(EUR Lex)の見方

 

 TSIは共通ルール化されていますが、EU加盟各国ごとにどうしても異なるもの、例えば軌間の相違によるものは計算で読み替えられるように工夫して制定されています。また、適用対象となる鉄道は、幹線鉄道が指定されています。ローカル線や、都市内の地下鉄、路面電車には適用しないことが規定されています(2.で後述するCSMについても同じ)。

また、TSIの策定には、「ニューアプローチ」という概念が採用されています。ニューアプローチは、鉄道分野に限られたものではなく、1985年の欧州閣僚理事会指令に規定されている、強制力のある規定は「必須要求事項(Essential Requirements)」に限るべきであるという考えです。また、別に欧州指令に適合しているかどうかの判断は、欧州指令を受ける形で制定されている欧州規格(EN)に適合しているかどうかで判断することも決めています。そのため、一部の欧州規格(ハーモナイズド規格、と呼びます)は、行政機関が定める法令の下請けのような機能を持っているのです。

鉄道では、欧州法令がTSIやCSM(後述)、その下請けのENはハーモナイズド規格のリストとして整理されています。(←リンク先は、TSI(2008/57/EC、現在は(EU)2016/797)に対する規格です。)

ところで、TSIを日本からみると、詳細に数値を定めてありますから仕様規定のようにも見えます。しかし、全体的に見てみると数値が書かれている項目は少ないことから、一般的には性能規定(functional specifications)をベースに、技術的要求事項(technical prescriptions)を規定する構造になるよう努めています。とはいっても、下の図のように、TSIの各条項からは多数の欧州規格(EN)を引用しているため、性能規定化は目指しているものの現状でEN規格には数字や、詳細な仕様が決まっていることが多いため実質的には仕様が決まっている部分も多いです。lifting pointなどで後述します。

【図2】TSIから引用される欧州規格(EN)、UICリーフレット等


このようなTSIに対して、自国だけの技術基準(NNTR)を定めることもできるようにインターオペラビリティ指令(後述)に規定されています。ある国がTSIと異なる技術基準を制定したい場合には、自国の技術基準(NTR)を制定した上で、TSIとの差分について他の加盟各国に通知をすることが義務付けられています。そのため、通知された各国規則(NNTR:Notified National Technical Rule)と呼ばれます。

各国独自の鉄道鉄道技術基準に関する欧州のルールと、具体的なNNTRについてこちらから調べることができます。TSIについては、2008/57/EC(※2016年に全面改訂されており、(EU)2016/797になっています)を指定する必要があります。個別に各国をみていくと、UIC規則や、DIN等の規格への適合を定めているものが多いため詳細までは分かりませんが、運転室の構造や、事故防止対策と思われる各国ルールがあることが分かり、おもしろいです。余談ですが、これをみると、欧州の鉄道技術基準がTSIに統一される日はこないだろう、という気がします。

※欧州鉄道庁が分析した報告書(p58,65)レポートも公表されています。

TSIへの適合性の審査機関と、審査品質の均一化

TSIに対して適合しているかどうかは、NoBo(Notified Body:通知機関)に指定された機関が適合性評価を行うことが、インターオペラビリティ指令((EU)2016/797)により決められています

NoBoは、EU加盟国のどこか1国以上から承認又は指名を受けると、NoBoの審査結果は、どの国の行政機関に対しても等しく通用する(相互承認されなければならない)ことも決められています。そのため、NoBoの審査が安全確保の上で重要になるため、審査の品質が一定水準に揃うよう、TSIでは、NoBoの認定要件や、NoBoに認定後に、欧州鉄道庁が組織するグループ(NB-RAIL)に加盟しなければならないことも規定され、審査の品質が一定になるように指導しています。ちなみにどんなところがNoBoに指定されているかは、ここで調べることが可能です(なお、NoBoと呼ばれる機関は、さまざまな欧州指令にあるため、「NoBo」を検索するのではなく、「(現在は全面改正されて2016/797(EU)になっていますが)2008/57/ECによるNoBo」又は「を検索することが必要になります。)。詳しくは次ページに後述します。

NoBoが行う適合性評価の範囲が、ある社は製造方法だけ、ある社はマネジメントシステムだけ、というように評価をするやり方や範囲がバラバラだとすると、評価結果の相互承認を行うことができなくなったり、穴が生じてしまうおそれがあります。そのため、NoBoの審査のスコープは「モジュール」という適合性評価を行うスキーム(仕組み)を決めています。くわしくはここに掲載(欧州鉄道庁の「Conformity Assessment」に掲載)されていますが、以下の図3,図4のように、この製品ではこのタイプの認証とこのタイプの認証が必要(この製品分野は「CA1」モジュール、この製品分野は「CB」と「CD」モジュール、というものです)だ、というように決めることで、NoBoの審査の質を確保しています。例えば図5のようにNoBoの審査が行われます(この図では、CBモジュールとCFモジュールで製品が審査されています)。また、発行する証明書のタイプ、名称も規定(このp10のように)しています。

もし評価方法をモジュールとして共通化していないと、認証機関によって認証範囲がまちまちだったり、その評価の方法が異なっていると、穴が生じてしまいかねないため、モジュールを規定することで評価範囲、評価対象、評価手法を揃えています。

 

【図3】インターオペラビリティ構成要素に対するモジュールタイプ
(文字色は、改正前後の変更点)

 

【図4】適用できるモジュール(上;車両TSI guideline、下:Guide for the application of TSIsより)

 

【図5】モジュール別の審査

NoBoとRAMS認証機関との相違

 

ここで、RAMSの認証機関と、上記のNoBoの相違について比較したいと思います。

実態としてNoBoは、RAMSの認証機関が務めており両者は混同されがちです。

その両者の位置づけについてそれぞれ図6・図7に示します(クリックすると両者が並んだ図が表示されます)。

もちろん、NoBoはRAMSを含めたTSIに対する適合性審査を行い、RAMS認証機関はRAMSに対する適合性を審査を行う点が最も違う訳ですが、その他、認証機関として認められる手続きと、審査結果の通用性に違いがみられます。

  • 1.認証機関を認定する機関の能力
  • 「認定機関」とは、認証機関に認証を行う能力があるかどうかを判断する機関です。NoBoの場合には、認定機関とは呼びませんが、便宜上「認定機関」と表現します。

    • RAMSではISO/IEC17011に適合した機関のみが認定機関となっており、認定機関同士の能力の同等性が確認されています。
    • NoBoではEU加盟国に一任されています。そのため認定機関の立場は一様ではなく、行政機関が自らの一部門をNoBoに指定していたドイツなど、国によって異なる性質の機関が担当する場合がみられます(※2019年時点では、Interim NoBoとして民間の機関も指定されつつあります)。
  • 2.認証機関の認証の効力
    • RAMSでは、認定機関同士の同等性から、一般的に認証機関の認証書にも一定の同等性が認められるのですが、法的には保証されていません。プロジェクトによっては、「この認証機関の認証書」、と認証機関が指定される場合も見られます。
    • 一方、NoBoの認証書(適合書、宣言書)についてはEU域内で同等に扱われることが欧州法(TSI)により定められていますので、審査結果のCross Acceptance(相互通用性)が法的に保証され、重視されています。
【図6】NoBoの立ち位置

一言でいうと、NoBoの仕組みは、行政機関である欧州鉄道庁の監督下、審査結果をCross Acceptanceできるように審査の同等性を維持することがより重視された仕組みとなっています。調整する場(NB-RAIL)もあります。

一方、RAMSの認証機関は「認定」(認証機関と認める手続き)こそ厳格ですが、審査結果の同等性についてNoBoのように調整する仕組みもないことから、認証実績が多く、著名な機関が選ばれやすい事業環境となっています。

−−−追記−−−

認証機関や認証員によって、その認証員の得意分野や不得意分野において、他の認証員と判断が異なる(エンジニアリング ジャッジ、と呼んでいます)あまり好ましくはない現象がどうしても起こりえます。また、認証機関の傾向としても、プロセスの実施を重視するところと、製品のリスク解析方法や、設計技法まで細かく確認する認証機関もあります。ISO/IEC 17065は、明確な判定基準が規定されているわけではないため、このばらつきが生まれます。
 対策としては、認証機関側では外部からの指摘を受けて業務を是正する手続きを持っています。また、認証を受けるメーカーや鉄道運行事業者側での対策として、鉄道プロジェクトマネージャー等から「認証機関は〇〇社に依頼せよ」、と認証機関を指定される場合もあります(他の認証機関の認証は認めない)が、NoBoについてはこのような選別するようなことは生じません(少なくとも表向きは)

欧州のルールが世界の常識化

上記のように、認証機関をNoBoとして取り込み、技術基準をTSIに、安全管理方法について後述する「CSM」という欧州法にまとめた欧州鉄道庁では、「このモジュールタイプを審査する機関(=認証機関)には、この資格が必要」ということをまとめたガイドラインも発行しています(2017年)。

欧州鉄道庁のガイドラインは、欧州域内向けに作られているわけですから、アジアや中近東など欧州域外の鉄道プロジェクトにおけるRAMS認証について、欧州鉄道庁の意向やガイドラインを踏まえる必要はないはずです。

しかし、欧州のガイドラインや、欧州の「常識」はかなりの通用力をもっているため、これに合っていない認証や、解釈運用の違いがあると、認証書を受け取る相手によっては「その認証機関の認証書は受け取れない」・・・と言ってくることも起こりえます。前述のとおり、RAMSの認証機関の認証書が通用するかどうかは結局のところ相手の考え方次第ですから、欧州域外においてはこの点も注意が必要です。例えば、認証審査計画書を事前に取り決めるようなことで、最終局面でのトラブルを防ぐことが考えられます。

余談をもう一つ。TSIでは、信号TSIについてRAMSを適用することが規定されています。一方、グローバルにRAMS認証を行っている認証機関はほぼNoBoに認定されているので、欧州におけるTSI及び後述するCSMーRA(リスクアセスメント)の適合性認証のやり方が、東南アジア、中国、インド、中東等の欧州域外でのRAMSの審査方法の大枠を決めている状況になっているのが実態です。日本からみると面白くない状況ですが、なんともしがたいところです。なぜなら、欧州のルールが大手を振っているのはそれだけ広く使われているためで、理屈ではないからです。

各国独自基準(NNTR)の上乗せ

話が少しそれましたが、TSIに戻ります。

EU加盟各国では、TSIに加えて各国特有の規則(NNTR)を定めたることができ、そのNNTRに対する適合性はそのNNTRを定めた国が認めた「DeBo」(Designated Body)が適合性評価することがインターオペラビリティ指令により決められています。

DeBoについては、NoBoと比べるとグローバル認証機関というよりも、特定の技術分野の知識を持った組織がなっていることが多い印象です。

さて、細かい話ですが、本来はTSIを規定すべきながらまだ規定していない技術項目もあり、「オープンポイント」と呼ばれています。例えば、TSI OPEでは列車ダイヤを決めることを要求していますが、列車番号の振り方やダイヤの決め方はオープンポイントになっています。

このような場合の適合性評価を誰が行うかは下表のように分担が決められています。分担は決められていますけれど、NoBo、DeBo及び後述のAsBoは、結局同じ機関が担当している場合も多いため、判断根拠を明確にすることがTSIに書かれています。さらに欧州鉄道庁では、「そのような場合でも、NoBoとして評価したのか、DeBoの立場で評価したのか、等が分かるように審査し、何を根拠として適合性を判断したかを明確にすること」という通知を出しています(NB-RAILという、欧州鉄道庁が組織するNoBoが加盟しなければならない公的グループにおいて回覧されています)。

少し先走りますが、AsBoやNoBoは独立した安全性評価を行う機関ですが、根拠法令が異なり、評価基準も異なります。しかし、どちらの評価者もISA(Independent Safety Assesor)と呼ばれますし、RAMS(EN50126-1)でもISAが登場しますので、混同されることも多いのですが、それぞれ別の評価です。

【表2】TSIとNNTR(各国の規則)の境界部分の審査の分担

NNTRの数について、EU加盟国(ノルウェー、スイスも含め)から通知があった数を図8に抜粋します。この図では、平均値より多いか、少ないか、で色分けされており、箇条数が書かれています。図は欧州鉄道庁の2015年のレポートから抜粋しています。
欧州鉄道庁では積極的に各国と議論をしていることについて、EN50121(EMC)を例にこちらで後述します

【図8】NNTRの国別数

NNTRについては、7.にまとめています。合わせて参照ください。