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- .まとめてみました
目次
分岐器の鎖錠
Indirect Locking or Direct Locking
分岐器の鎖錠(さじょう)とは、列車の通過中等に分岐器が動いてしまわないよう固定しておく、列車の安全上とても重要不可欠な仕組みです。
分岐器の鎖錠には種類がありますが、このページでは、下の図1の赤で示している可動部分(トングレール)を、黒色で示す基本レールにしっかり密着させておくための方法(轍査(てっさ)鎖錠)の方法の違いについてご紹介します。※分岐器の鎖錠には、列車が迫っている時には転換できなくする鎖錠(接近鎖錠)もありますが分岐器周りでの鎖錠の仕組みとしては一緒ですので一緒に説明しています。

日本からの海外輸出案件であっても海外のやり方を採用されることが多く、日本の鉄道システムをそのまま輸出できない原因になっているものの一つです。まず、欧州の方式を紹介します。
直接鎖錠(ヨーロッパや東南アジアの方式)
直接鎖錠とは、トングレールそのものを直接固定する方法です。欧州では広く使われておりますが、具体的な実現方法はいくつかの形態があるのですが、@線路の下を通した鰐口クリップのような形状の腕で物理的にトングレールの先端を基本レールに抑え込んで動かないようにロックするもの(図2)や、Aトングレールの先端に鎖錠のための凸凹の切り欠きがある薄めの金属部品(Fish tail)を取り付け、この凹凸と転換棒を嚙合わせてロックする方式(この方式は古く写真をもっていません・・)・・が代表的です。

図2の方式の詳しい仕組みはメーカーさん(Fosslowさん)のサイトに、トングレールの位置検知や鎖錠を正確に行う仕組みが動画と4コマの図で紹介されておりますので、ご参照ください。他メーカーさんですがAlstom TM 100も同じような機構の装置です。
この方式の分岐器の場合、モーターは転換する動力だけなので小型です。図2では軌道の外側に作画してありますが、実際は走行レールの軌間に置かれている場合もあります。
なお、このようなハード的な鎖錠装置ではなく、単にトングレールがどちらにあるかだけを検知する簡易的な装置(※電気的な接点)の場合もあります。この場合、位置検知精度が低くなりますが、同じく直接鎖錠方式と呼ばれますので注意が必要です。この場合、トングレールのある・なしは分かりますが、トングレールの正確な位置をmm単位で検知するような精度はありません。
標準化については、直接鎖錠方式は欧州規格EN 13232-4「電気転てつ機の転換鎖錠装置」において、構造や試験、保守方法が規定されています。
欧州にもある転轍鎖錠装置内での鎖錠
欧州でも、後述する「間接鎖錠式」と同じように、転轍鎖錠装置の機器箱内にて鎖錠をしているケースがあります。イギリスの国鉄系鉄道事業者の例を示します(図4)。
図中に赤で示す金属棒には凸凹の切り欠きがついており、この位置でトングレールの位置状態を検知できます。転轍鎖錠装置内では機械的に切り欠き部分を押さえたり、離したりすることで鎖錠をしています。


下の写真は、ロンドンの地下鉄線での鎖錠装置の例です。なお白字で書いているTSS地上子については別のページ(18)でご紹介します(写真を兼用しています)。

間接鎖錠式(日本)
間接鎖錠式は日本で一般的な方式です。この分岐器(より正確には転轍(てんてつ)鎖錠装置)についてご紹介いたします。
下の2枚の写真は(手持ちカメラなので画角が変わってしまっていますが)分岐器の方向が転換する前後の写真です。なお、この分岐器は車庫用の特殊なものです。
分岐器は長いため、左側の転換鎖錠装置による押す力だけではトングレールは動かせず、先端(写真手側)とトングレールの付け根(写真奥)の2箇所に動力となる棹があり、棹の左右の動きによってトングレールを左右に動かしています。


日本の場合、分岐器の方向を転換させたり、列車の位置に応じて分岐器を鎖錠を行うための装置は、分岐器メーカーではなく、信号メーカーが製造しています。ここで紹介したい間接鎖錠の機能は、転轍鎖錠装置が受け持っています。
上述の直接鎖錠式ではトングレールの先端付近を直接つかんで基本レールにロックしていましたが、間接鎖錠式では、図5のように分岐器を動かす装置である転轍鎖錠装置(薄い網掛け部)の中で鎖錠をしています。図5の2の部分で、青い棒が動けば分岐器のトングレールは動くのですが、青い棒と赤い棒についている切り欠きによって、転換されないように機械的にロックしています。

日本にもある直接鎖錠式
欧州でも、上記以外の直接鎖錠方式の分岐器(転換装置)はさまざまな種類が開発されております。日本でも下の図6にあるYS型分岐器は、トングレールの先端部分近くの軌間の梃子状の機械装置(ゲレング(ドイツ語)、保護カバーがかかっているので通常見えない)でトングレールを機械的に直接ロックしているため、直接鎖錠式といえます。

間接鎖錠式の密着力の根拠
ここまで、分岐器のトングレールを押さえつける方法について述べてきましたが、分岐器にはどのくらいの力がかかるのでしょうか。
トングレールを基本レールに押し付けて密着させる力は、日本では軸重が軽いため、電気式分岐器の場合には1kN〜2kN、ばね式の発条分岐器(※転換鎖錠する仕組みはありません。念のため)の場合1.7kN〜2.7kNです。この数字は規格化されておらず、10年ほど前まで保守担当者が手先の感覚で調整していたものを数値化したものです。
他方欧州の製品の場合には直に押さえ込んでいるため、一桁違う力で押さえています。
一方、分岐器を通過する際に列車は大きく横に振られますが、あの力はどれほどでしょうか。分岐器はその通過列車の荷重を受けても破損しないように、標準的な設計荷重については下表のように、58.8kN(6000kg重)ほどを見込んでいます(日本の普通鉄道の場合です)。6tの力がかかるのですから、かなりの衝撃に耐える必要があります。しかし、この列車由来の横圧は、車輪が当たっているレールを横に押す力ですので、トングレールがしっかりと密着している限りは悪影響はありません。
海外で直接鎖錠式を要求される理由の一つには、間接鎖錠式の1kN〜2kNの密着力で本当に足りるのかどうかという判断材料がないことが挙げられます。
横圧 | 直線部 | 曲線部 |
まれに発生する荷重 | 29.4kN | 58.8kN |
常時発生すると想定する荷重 | 14.7kN | 29.4kN |
分岐器の英語表現
余談ながら、分岐器は英語で、turnout ,point、switch、crossing等と、いろいろ呼び名があります。鉄道用語として厳格な使い分けが決まっている訳ではありませんが、イギリスでは、switch、crossingは分岐器(turnout、turnout point)の中でも下の図のように特定の部分を指すように使われ、これらの全体を指す単語がturnout(一語)となっているのが通常です。
注意が必要なのは「point」です。鉄道用語としても英米の違いが大きく、分岐器全体を指す用語として使われる場合(イギリス、日本等)も、可動部分だけを指す場合(米国等)も、どちらもありえるためです。可動部分だけを指すなら、point blades、 switch rails、・・といったように、形をイメージする語を使うべきです。
そもそもこれらのpoint、switch、crossing、turnoutという語は、一般語としてもいろいろな意味を持つので、文脈上読めなさそうな場合には単体使用は避けて、railway point、 railway switch、railway turnout、turnout rail、という感じで鉄道の分岐器を指すと分かるように使われます。その際、crossingについては、踏切がイメージされる可能性がある「(単なる)crossing」や「railway crossing」は避けるべきです。踏切は普通level crossingと表されますが(線路と道路の高さ(level)を合わせてある交差部(crossing)だから)、線路が分かれている場所を指すならばturnoutに言い換えるほうがいいと思います。
似た単語であるjunctionは、分岐駅を指す駅名としてよく使われています。線路が交差する部分もjunctionなので文脈上紛らわしい場合には、junction stationのように、語を補うべきです。level junctionは、平面交差部を指します。
分岐器を転換鎖錠するモーターが入った機械(転換装置。※直接鎖錠方式なので、転換機能のみです)については、point machine、switch motorと表現されます。

直接鎖錠・間接鎖錠の比較
ケースバイケースな面はありますが、それぞれの方式の注意点を以下のようにまとめます。
直接鎖錠式 | 間接鎖錠式 | |
鎖錠装置設置場所 | トングレール先端付近 | 軌道の外側 |
設置 | 設置場所の制約が少ない | 転轍鎖錠装置との位置合わせが難しい |
保守 | ・レールに付属した機械部品のため、保守が複雑 | ・保守しやすい ・レールの匐進(温度による位置ずれ)への対策が必要 |
トングレールの折損検知 | 装置によってまちまち | 検出可能 |
トングレールの開口量把握 | 装置によってまちまち | 検出可能 |
規格 |
EN13232-4、 NF F52-163等 |
メーカー・鉄道事業者の社内規格 |
まとめ
分岐器は、日本からのパッケージ型の鉄道輸出案件であっても、ヨーロッパの直接鎖錠方式が取り入れられることが多いです。
理由はいくつかありますが、現地の鉄道事業者さんとしてはメンテナンス教育のしやすさから直接鎖錠式を希望されますし、日本の方式になじみがないことや、日本の方式には規格のような根拠が乏しいことから鎖錠の確実さへの不安がぬぐえず、また夏の高温でレールが伸びる地域ではレールの匐進(ふくしん)への対策が必要なことが理由として挙げられます。
最近の海外展開では、台湾の高速鉄道線やベトナムの地下鉄では欧州に多いタイプである直接鎖錠方式が使われていますが、インドネシア・ジャカルタ地下鉄南北線では、間接鎖錠方式が取り入れられています。
施工のしやすさをとるか、メンテナンスのやりやすさを取るかなど、それぞれの優先順位付けの考え方によって違いが生じるようです。
余談ですが、日本や英国では分岐器の角度を「〇番分岐器」とクロッシング角度を整数化して番数で呼びます(日本ではJIS E1302に定義)。一方、欧州では「1:12」のように、分岐器の開き具合をちょうど勾配のパーミルと同じ考え方によって呼称する場合が一般的ですが、両者の番数では計る場所が違うため数値が異なる可能性が生じます。詳しくは別のページにて後述します。英国では1:24(日本では24番)を「タイプA」、というようにアルファベットで呼ぶ場合もあります。
分岐器(車庫線)を転換させてもらったが、難儀している筆者。
