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脱出窓

emergency window exit

緊急時の脱出口としての窓構造について記載します。

日本と国情の違う国々では、旅客の使用する構造物や設備には、残念なことながらバンダリズム(暴力行為)に対する備えとして、強度基準を技術基準に記載している場合があります。
 このような暴力行為に備えているのに、目立つところにハンマーを設置することに矛盾を感じてしまうのですが、やはり列車火災や転覆などの際に、脱出することやレスキューによる救出口として、窓を重要なものと位置づけていることがうかがえます。


 アメリカの連邦鉄道庁は、技術基準49CFRのPART 238は、鉄道の旅客用設備の安全基準を定めているパートなのですが、転覆事故を受けた改正により、図1のように基本的に列車の左右どちら側にも、列車の前後どちら側にも、緊急脱出又は救助に利用することができる構造の窓を設けた構造とすることを新造車両に対して求めるように改正されました。

【図1】米国規則

 

NTSBの事故報告書にある提言では、緊急時に容易取り外せる構造の窓として下図のようなものを例示しています。私は実物を見たことがないのですが、緊急時以外に危険なのではないかと心配になってしまいます。

【図1の参考】zip構造の窓

欧州においては、窓に限らず(隣の車両に逃げられる、というのも含めて)2方向で避難できる構造を要求しています。
 欧州の高速鉄道では客室の一部がコンパートメント(個室)に区切られている場合がありますが、このような部屋の場合には、(1)通常のドアと(2)窓 の2カ所を脱出経路とすることが多いようで、脱出用に供するコンパートメント各室の窓には打撃点の表示が行われています。

【図2】脱出用ハンマーと、窓の打撃点表示(ヨーロッパ)
(ドイツ class646とポルトガルAlpha Pendular)

【図3】中国の高速鉄道(CHR3)・ハンマーの収納箱

日本の場合には、技術基準により客室内に使用する材料は、A-A'基準による試験を行い、不燃性(金属など)、難燃性、自消性のある難燃性の材料を使用しなければならないことが定められています。天井材ではコーンカロリーメーターによる溶融滴下性試験を行うことも追加で行われています。当然、容燃性のものは使用できないことになります。
 欧州では、寝台車のようなリスクの高い車両のカテゴリー分類に応じて対策を行いますが、日本では全ての旅客用車両に同じ基準を設けています。

車両材料の燃焼性試験については、22において後述します

【図4】日本の不燃化対策

【出典】運輸安全委員会報告書 RA2016-05-2 pp31より。