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- 1.パンタグラフ
- 2.車両の外寸
- 3.鉄道車両の軸重と材質
- 4.車体外側の標示
- 5.ETCS(列車運行システム)
- 6.オーバーラップと信号の変化
- 7.連結装置
- 8.脱出窓
- 9.レールの接地/非接地
- 10.ATCの速度照査パターンの引き方
- 11.電磁吸着ブレーキ
- 12.分岐器の鎖錠
- 13.デジタルモデリング・BIM・UICリーフレット
- 14.軌道構造
- 15.軌道構造・人材育成
- 16.接着・溶接認証
- 17.「速度信号」「予告信号」が必要な理由
- 18.速度超過検出
- 19.異相区分切替セクション
- 20.波動伝搬速度[架線の構造]
- 21.サードレールの活用
- 22.車両材料による火災対策
- 23.鉄道運転免許
- 24.プラットホームの高さ・ドア高さとドアの大きさ
- 25.車両のドア構造
- 26.5G対応無線式信号(FRMCS)
- 27.高速鉄道線のトンネルの断面積
- 28.列車の分類
- 29.民営化された国鉄路線(工事中)
- 30.行路表の配布者
- 31.オープンアクセスは強制開放
- 32.客室の座席配置
- 33.列車位置把握(工事中)
- 34.高速鉄道の在来線線路走行
- 35.メンテナンス
- 36.車両の堅牢さ
- .まとめてみました
目次
鉄道車両の火災対策について
車両材料について
火災防止への取り組み
鉄道車両火災がひとたび生じると甚大な被害を発生することは歴史が証明しています。日本をはじめ世界中で、火災リスクの高い、長大トンネル(※避難の容易さにも関わりますが、1km〜10kmが閾値になっていることが多いようです)、寝台列車等での対策に力を入れてきました。
現在でも、欧州のTransfeu等、火災対策をテーマにした学術研究的な場には多くの鉄道事業者、メーカー、研究機関が参加し、より安全な鉄道とするために技術の日進月歩の発達が進められています。
一般に車両に目が行きがちですが、構造物についてはトンネルの構造や、排気設備の設置にも工夫されています。地下鉄駅ではスプリンクラーや二方向避難等の基準も設けています。
沿線の電力設備についても、変電所の耐火性の他、線路沿線の長大な配線をトラフの中で分離して配置することや、ケーブルの難燃化等、発火を防ぎ、かつ燃え広がらせない対策は、法令や現場の工夫としても様々に取り組んでおります。
このページで紹介している車両材料燃焼性試験では、欧州側の試験が緻密そうに見えると思いますがそれはその試験だけを見たときの印象だと思います。日本は総合的な対策を行っていることをぜひご理解願います。


前おきが長くてすみませんが、もう一点。対策をしていても小動物や、たばこの不始末によると思われるケーブル損傷による発煙事故の発生頻度は高い状況です。これらの対策は地道で多くの作業者の方が昼夜分かたず施設点検にご苦労されておられることを申し述べさせていただきます。
鉄道車両材料の火災対策
鉄道車両は旅客を守る上で最重要のものです。日本から車両輸出する上でも車両火災対策の相違の克服がかなり重要な課題となっていますので、車両材料について紹介させていただきます。
・・・と申し上げても、スプリンクラー等ではありません(車両にスプリンクラーが無い理由は、移動体であるために避難を妨げになり別の災害、弊害を生じるおそれがあるためです)。
車両に用いることができる材料の試験について紹介させていただきます。
試験方法と評価方法の違い
火災材料試験について紹介したいのですが、試験には、試験を行う方法(測定機器等)と、試験結果の評価方法(合否の境)の2種類の基準が最低限必要です。
以下で紹介するEN 45545-2は、試験を行う方法と評価方法と、両方を含んでいる規格です。
車両材料の適合性の利用者
日本も欧州も、車両材料メーカーの製造した製品が基準を満たすことを確認するために、試験が可能な試験機関(日本では日本鉄道車両機械技術協会、欧州ではISO/IEC17025に適合する機関)に対して試験を依頼し、試験報告書を発行してもらいます。
この試験報告書により行政機関からの車両認可が得られるのですが、欧州では、車両メーカーに対して、製品ともども提供されることで行政からの車両認可が得られます。日本では一般的に試験報告書までは不要で、試験報告書の番号をメーカーさんに伝えています。まあ、大体同じですね。
火災安全規格(EN 45545)
欧州では、インターオペラビリティー指令に基づき制定されたTSI LOC&PAS(車両)の4.2.10.2 項 「Material requirements」 (材料要求事項)により、車両に使用される材料は、EN45545-2 の燃焼試験に従うことが義務づけられています。ほかに、CSN EN1363等も強制規格となっています。
EN 45545-2は、材料別に既存の規格等を引用する形で行うべき燃焼試験を定めている規格ですが、EN 45545独特の試験を定めているわけではありませんし、なぜその試験なのか、という説明があるわけではありませんが、以下の既存の規格等を引用しています。規格には著作権があるため具体的には規格そのものを参照ください。
日本の車両材料試験との違いとして、EN45545ではその部材の使用場所によって試験が変わります。規格の内容は膨大ですのでごく一部を例示して紹介します。
まず、材料を分類します。使用する場所と、その部材の性質から以下のような表から製品グループを割り出すと、必要な試験が分かるように規定されています。日本の試験も同じですが、床材等は単品ではなく、車両に使う形態(複合材)と同じように接着・塗装した部材(構造材)を最小単位として試験をすることが規定されているものもあります。
例えば、IN1Aに当たる材料は、R1の試験を行う必要があると分かります。
分類名 |
使用場所 |
詳細の説明 |
試験 |
|
IN1A |
内装 |
垂直面 |
内装壁面、窓等の構造材及び化粧材 |
R1 |
IN1B |
内装 |
水平面(下向き) |
天井材、断熱材等の構造材及び化粧材 |
R1 |
IN1C |
内装 |
水平面(上向き) |
床敷物等の構造材及び化粧材 |
R10 |
IN15 |
内装 |
床材 |
複合床材(構造材。最終形態であり、接着剤、塗料も含む) |
R10 |
EX1A |
外装 |
壁材 |
車体材、窓、ドア(構造材で塗装も含む) |
R7 |
EX2 |
外装 |
屋根材 |
構造材。塗装も含む。 |
R8 |
次に、R1のテストについての表から、ハザードレベル(HL)1〜3の場合に行うことと、具体的な試験方法はISO 5658-2(CFE)、ISO 5660-1、ISO 5659-2、ISO5659-2(CIT)だと分かるようにようになっています。
試験はR1からR26まで分類されていますので具体的な試験は多種多様になりますが、例えば以下のような試験への適合が必要となっています。
- ISO 5658-2 垂直方向、水平方向の延焼性試験方法
- ISO 5660-1 発熱性(熱放出率)の試験方法
- ISO 5659-2 発煙性(煙密度)試験方法
- 同上 有毒性 毒性試験方法
ここで紹介しているものはごく一部です。このほかにも車両の部位別に多数の試験方法が挙がっています。
ハザードレベル(HL)については、EN45545では、車両の運行カテゴリー(OC)と、車両の種類(設計カテゴリー、DC)により、ハザードレベルをHL1〜HL3の三段階に分類することを規定しており、ハザードレベルの高い車両の部材にはより厳しい判定基準又は試験が課せられるように規定されています(下図参照)。

ハザードレベルによって対応が異なる理由としては、ISO 13571「火災事例に基づく避難時間の評価指針」にある、ASET(人が脱出・避難ができなくなるまでの時間)とRSET(避難に必要な時間) の考え方から、ASETを長くすることで、RSETを確保する、という考え方で制定された旨が説明されています。
EN45545-2ではたくさんの部位名が並び、HLごとに試験が書かれていますが、EN45545独自の試験法はなく、既存の対策を1規格にまとめただけのような規格体系となっています。部材やその使用場所によりたくさんの試験への適合が必要になりますし、鉄道事業者さん等が有効期限を設定する場合もあるため、条件にあう試験所探し、試験所の指定する形式での試験部材の準備、試験実施等、時間もコストも大変かかっています。
着火性 Ignitability | 熱発生率 Rate of heat release |
延焼性 Spread of flame |
発煙性 Smoke |
有毒性 Toxicity |
|
複合パネル | ISO 5650 コーンカロリーメーター |
同左 | ISO
5658-2 熱放射板 |
ISO
5659-2 NBSチャンバー |
同左 |
内装材 | ISO 9705 カロリーメーター |
同左 | 同左 | ISO
5659-2 NBSチャンバー |
同左 |
・・・ |
また、EN 45545は、ISO 17025(試験所)を満たす試験所での実施を前提としています(これはEN45545-1の、8に規定されています)。
リスク評価を加味
EN45545-2では、上表のように部位別に試験が列記されているため、どこに該当するのか明確ではない内装材や電線が多数生じます。
そのような部材では、発火リスクが無いものは試験を行わない等、鉄道事業者の判断によるリスクの多寡に応じて解釈する柔軟な運用が行われています。
日本でも、どこまでが壁、どこから天井か、や、固定されているかどうかは解釈が入る余地がありますが、欧州でも同じように、金属管(不燃材)に入っている配線や、固定戸棚のようなものは試験を行っていない事例を聞いております。
有毒性
いくら燃えにくい材料であっても、有毒ガスが発生してしまうと大変危険です。
ケーブルについての試験法はEN 50305に規定されており、生命又は健康に危険となる有毒な濃度にならないことを基本的な考え方として、CO,CO2、HCN、SO2、NOXについて測定法と、試料の重さから算出される「臨界濃度」を規定しています。
日本の試験法では、煙の毒性試験は行われておらず、定量的な評価も行われていない点です。そのため、日本からの車両輸出を行う場合、車両に用いられる客室内の素材もそれは大変ではありますが、多種多様な大量の電線類の有毒性を試験し、検証することが特に大変な作業となっています。
欧州では、ケーブルは不燃材(金属製の管)に格納することで火源とならないようにするなど、リスクを下げる取り組みが行なわれております。ケーブルは本数が多いので車両は重くなってしまいます。
日本の車両火災材料対策
車両全般の対策と、材料の燃焼性試験についてまとめます。諸事情があるため、簡単に紹介させていただきます。
電線 |
アークを発生又は発熱のおそれのある機器に近接又は接続するもの |
極難燃性 |
上記以外 |
難燃性以上の材料で覆う |
|
電気機器 |
アークを発生又は発熱のおそれのある機器 |
床壁から隔離し、不燃性の防熱板を設ける |
内燃機関を有する車両 |
− |
床壁から隔離し、不燃性の防熱板を設ける 煙突部分の断熱強化(不燃性の防熱板など) |
一方の日本では、小規模な火源(たばこの火等)を想定した試験で、1969年当時の英国での類似試験(1932年制定のものですでに廃止されていましたが)を参照し、日本独自に制定したものが使われています。
車両内で使用される部材には、金属のような不燃性のあるものを除き、下図のA-A'試験に合格した材料を使うことが必要です。
座席のモケット、カーテンのようなものや、観光列車で見かける木製の壁材なども、燃えそうに見えるとしても、自消性のある難燃性に合格しているものです(ただし、固定しない部材は材料燃焼性試験を不要としていますのですべてではありません。念のため)。
この日本の材料燃焼性試験では、着火して燃え広がらないことや、発煙性について試験しているのですが、有毒ガスについては対象外となっていることが日欧の大きな違いです。


溶融滴下性試験は、2003年の韓国大邱市地下鉄火災(大火源火災)を考慮し、2004年に追加した試験方法です。
天井部材の溶けて滴下したものが延焼を招くことから、放射熱による延焼を防止するために客室天井に用いる材料に対して行うことを目的にしています。
この試験では、ISO5660-1:2002に準じて、コーンカロリーメーターによる50kW/uで10分間実施することとしています。この試験については、部材や判定基準値は異なりますが、試験方法としてはEN45545-2と共通した試験となっています。

日欧の違いについて
EN45545では、車両の形態からハザードレベル(HL)を算出し、ハザードレベル別に適用される試験や、試験の難易度(判定基準の厳しさ)が異なっています。どの車両用に使う材料なのかが重要になります。
一方日本では、どの車種に使用するか、という分類はありません。
試験の厳しさ
日欧で着火性等共通する試験項目はありますが、試験方法が全く異なりますので、どちらがより厳しいかは一概には言えません。
日本では、煙に含まれる有毒ガスの濃度は試験の対象外となっていることや、試験全体で数値的な合否判定基準は不明確です。その点も比較を難しくしております。
また欧州では、試験方法はかなりの種類に上りますが、火災リスクの低い部材は試験を行う必要のない部材だと解釈する等、リスクを踏まえた対応も行われています。
有効期限
日本の場合、材料の配合を大きく変えない限りは一度合格した車両素材の期限に有効期限はありません。
欧州規格EN45545に基づく試験結果についても、規格上には有効期限はありません。しかし、調達者の考え方によって、3年間程度の期限内の試験合格を要求されることがあるため、試験のやり直しが必要になることがあります。
座席や内装材等の素材メーカーは、技術改良を進めるためにモデルチェンジを行うことはよくあります。
製品の型番が同じ範囲内であれば、基本的に性能は変わらないのが実態と考えられますが、有毒ガスのようなものは微細な組成成分の変更が試験の合否に影響する可能性がありますので、有効期限を切ることで、現状での材料の判断を行っているようです。
試験が必要な部材
以上述べてきたこととは若干ずれますが、東南アジアでは、一律に材料燃焼性試験を求めるのではなく、発火リスクがある部位の材料について燃焼性試験を求める、という運用がみられます(理由は存じ上げません)。
試験数が減らせますからコスト減になるはずですが、発火リスクの有無や、その対策の有無については、RAMSによるリスク評価が行われていない場合にはそもそも論じることができませんので、試験が必要な部材を減らすことに繋げられないことになりかねないと思います。