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以前書いた歌唱時間とも関連するのですが、過去の歌合戦でよく見られたのがテンポの速い伴奏。 1970年代前半までは、テンポが速いといっても少し速いだけだったり、歌合戦で演奏するバンドのアレンジがオリジナルと違って速いテンポの方が合う、という場合が多かったのですが、1970年代なかばから1980年代後半までは、オリジナルと同じ(もしくは普段の歌番組と同じ)アレンジなのに、テンポだけ速かったりします。
他の歌番組でも、歌手のランクやヒットの度合いなんかによって、1曲あたりの時間があり、1ハーフや2コーラス歌うために若干テンポを速めるということもありました。 でも、歌合戦は明らかにそれより速くなってることがあります。
なんかえらくテンポが速いなと印象に残っているのが、
いつも通り私の推測なんですけど、出場歌手を決める際には、ほとんどの場合まだ歌唱曲も決まっていませんが、だいたいNHKの頭には「この歌手はこれくらいの歌唱時間で(例えば、大物歌手だったらフルコーラスでもよいとか)」、出場の打診を受けている歌手の頭にも、「あの曲を歌いたい」というものはあります。
正式な出場歌手の発表後、いよいよ歌唱曲なんかの調整が始まりますが、ここでNHKから歌唱曲に加えて、「3分くらいで」という具体的な時間か「いつもは2コーラスですが、歌合戦は1ハーフで」という歌唱時間を縮めるよう要求もあり、そこで歌手側が想定していた時間とNHKから提示された時間の開きが大きいときに、「これはテンポ速くするしかないか」となるのかな、と。
「木綿のハンカチーフ」は、いつもはフルコーラスが4コーラスのところ3コーラス歌っていたのをNHKから「2コーラスで」と要請されたものの、「それでは曲の意味が伝わらない」といつも通り3コーラス歌えるよう交渉したと言われているので、2コーラス分の時間に3コーラス詰め込んだのかな、という気もします。
「ヤングマン(Y.M.C.A.)」も、当時の歌合戦でよく言われた「歌は2コーラス」よりも長い2ハーフだったので、通常のテレビバージョンをNHKから求められた時間に無理やり押し込めた感じです。
さらには、1980年代までは、本番の進行の遅れを歌のテンポを速めることで挽回しようとすることもあったようです。
岩崎宏美の「シンデレラ・ハネムーン」は歌っている最中にどんどんテンポが速くなっていったと語り継がれています。
当時の映像を見ると、曲の最中にはそんなに加速してないような気もしますが、最初から速かったのは確かです。
また、松田聖子の「青い珊瑚礁」は、音合わせの時のテンポはいつも通りだったのですが、本番では恐ろしいくらい速くなっています。
音合わせの時の様子は、神奈川県横浜市にある放送ライブラリーという施設で視聴できる「栄光の舞台の記録 紅白歌合戦この10年の裏表」で確認できます。
この年は全体的にテンポが速めで、特に歌い出しからの紅組・白組2組ずつや紅組3番手の石野真子あたりが異様なテンポの速さなので、必死に進行の遅れを取り戻そうとしていたように感じられます。
前に出てきた「木綿のハンカチーフ」や、第26回(1975年、昭和50年)に初出場したキャンディーズの「年下の男の子」では、通常より速いテンポのため、歌い出しでは伴奏、歌、観客の手拍子のすべてがずれているなんてこともありました。
近年歌合戦の伴奏で指揮を担当している三原綱木は歌手でもあることから、テンポを速めるよう要請があっても「それでは歌手がかわいそうなので、曲の終わりのアウトロだけ少しテンポを速めて時間を短くする」と言っていました。
彼は2015年(平成27年)まで指揮を担当していましたが、その後伴奏は事前収録となり、歌のテンポを速めて進行の遅れを取り戻すということはできなくなりました。
2016年(平成28年)は、再び生演奏が可能な楽曲については事前収録ではない伴奏が付くようになりましたが、テンポが速くなることはなかったようです。
1990年代からは、特にポップス歌手が生演奏をバックに歌わない(レコーディングで使用したカラオケをそのまま使う)ケースや、生演奏でもオリジナルと同じテンポで歌うケースが多くなり、テンポが速い曲は少なくなりますが、生演奏だったと思われるLINDBERGや小沢健二は「どうしちゃったの?」というくらい速いテンポになってます。 3分30秒くらいの歌唱時間を想定していたら「3分くらいで」と言われたケースかな、と思います。 LINDBERGが出場した第43回の前年にあたる第42回(1991年、平成3年)は、アイドルでないポップス歌手は3分30秒以上の歌唱時間がありましたし(3分30秒に届かなかったのは約3分20秒のバブルガム・ブラザーズくらい)、小沢健二も初出場した第46回(1995年、平成7年)は3分45秒くらいの歌唱時間でした(この年は、視聴者から「ポップスと演歌で歌唱時間に差がありすぎる」という意見があった年でした)。
2000年以降は、異様にテンポが速い曲はないかな。 忘れているだけかもしれませんけど。 その代わり、1番だけという曲もちらほら見かけるので、もう少し出場歌手や歌のことを考えてあげてほしいものです。
最後に、すごく珍しい例だと思うのですが、第14回(1963年、昭和38年)に西田佐知子が歌った「エリカの花散るとき」では、逆にテンポが遅すぎて、西田佐知子が歌の合間にジェスチャーでバックバンドにテンポアップを要求し、伴奏より少しだけ速いテンポで歌うことで、伴奏のテンポを徐々に速めていく、なんてシーンもありました。 あれは、時間が余っていたのかな。