日本の政治・経済の不調の原因

理魂文才

知優先社会は暗黙知を失い国は亡ぶ

追補ー19 まとめ と 参考文献

そもそもEUの中心はフランスでフランスはナポレオン が作ったトップテンに入る成績を示したCorps des Minesが国を牛耳っている。結果としてフランスには航空機、原発と農業だけで民間の製造業は小さい。米国も文系金融業者に国を乗っ取られた感じでなに もしなければ没落をたどる。どだいマクロ経済学は金融危機の発生を止める理論をもっていない。これはニュートン力学をまねた静的エセ理論だという認識が米 国で出てきて、理系がゲーム理論やエージェントベースモデリングを引っ提げて経済学に乗り出しているから、あるいは米国は復活するかもしれない。でも日本 の 文系は痴呆のままだから救いようがない。竹内洋の「学問の下流化」 はその社会学的随筆で納得がゆく。

ドラッカー流の表現をすれば、文系がリーダーシップを握るビジネスは「横を見るビジネス」であり、理系のリーダーがすることはなにか面白いことはないかと 「前を見るビジネス」になるといえばよいだろうか?要するに「顧客の奪い合い」ではなく「顧客の創造」である。

今日本に閉塞感があるのは日本がかって「前を見るビジネス」だったのが成功するにおよんで殆ど「横を見るビジネス」になってしまっていたからである。横を 向いている限り、中国が台頭してきたらかなうはずはない。トヨタの改善も横をみているだけである。

米国でも形式知がまかり通っている。だが日本より優れている点は暗黙知を持った人材を指導者として受け入れ、その効果を享受しようという気風があるところ だ。ところが日本社会ではそんなことより、居心地のよい人間関係を大切にするところがある。結果としてたしかに居心地がいいが、ある時、組織の地盤が崩壊 していることに気がつくのだ。米国の政・官・学・産のリーダーはよく横移動する。これにより暗黙知が遺伝子組み換えのように組織間を移動する。そもそも生 物が生殖機能をもったのも遺伝子交換のためであった。こうして沈滞化した組織は活性化された遺伝子をもらい、蘇生する。日本は縦移動しかないから、全くそ のような可能性が欠如している。そもそも縦に動く人間に暗黙知など詰まっていない。価値の失せた形式知しかないのである。

シリコンバレーのベンチャー・キャピタルKleinerPerkins Caufield Byers(KPCB)の報告書にあるようにムーアの法則は最早成立せず、したがって能力あるメーカーはファブレスになって米国のGLOBAL FOUNDRIESや台湾のTSMC等へ委託し製造している。そしてCPUの回路設計は1990年にシンクレアやアップルの共同事業としてケンブリッジに 設立されたアーム社の設計したマルチコアのリスクプロセッサが携帯電話 の90%以上をしめて、もはやインテルは敗者になった。NTTやノキアが開発した通信規格もクワルコムの符号分割多重アクセス方式に負け、クワルコムはこ の方式の通信セットとアーム社の設計したマルチコアのリスクプロセッサをまとめて委託製造したチップを世界に供給している。NTTの携帯はソニー製であろ うと、シャープであろうと、サムソン製であろうと、わたしのhtc製であろうとすべてファブレスメーカーを使うクワルコム製だ。11年前にクワルコムが勝 つの ではと予感してDoCoMoの古い時分割多重アクセス方式からauの符合分割多重アクセスCDMA)の携帯の乗り替えた時の予感以上に進展した。途中、山岳地帯 に強いNTTにももどり、NTTドコモのW-CDMA (Forma)にしたが、これもやがて破れ、クワルコム製の3G一色になったわけ。ソフトの面でもグーグルOSがすでに世界を制覇している。

日本メーカーはハードの設計もソフトの設計も手も足も出せずか出さずか。結局チップ製造なんて奴隷仕事なのだ、やはりCPUのデザイン能力を持たねば日本 の未来 はあまり明るくないのでは?東芝や他の日本のチップメーカーもなさけないことにアーム社に設計してもらったチップを製造している。日本はメモリチップの開 発者であったが、 メモリ回路が単純なゆえ、知的財産管理に失敗し、今では誰でも製造できるようになり、韓国にその座を明け渡してしまった。知的財産管理に失敗したのは製造 法にしか気が回らずデザインの重要性に気が付かなかったからである。航空機もボーイングの下請けでよしとし、自ら魅力的な概念の航空機を開発することをし ない。YS-11は戦前に独自の戦闘機を作った古手エンジニアが開発 したものだが、従順な若者が続くことはなかった。ジョン・レノンが呼びかけるようにJust Imagine。

冷泉彰彦氏は『産業構造の変革に苦しむだけでなく、人と人の関わり方や集合の仕方などでも本質的な「行き詰まり」を抱えている日本社会において、本当 に必要なのは日本人の好きな「和魂洋才」すなわち「更に和魂を重視する」というのではなく、反対に「洋魂」とでも言うべき「西洋発の原理原 則(プリンシプ ルとコモンロー)」を真剣に学ぶこと ではないかと思う』と指摘している。なにか白洲次郎のパクリのようにも聞こえる。そして、英語が母国語でないから、金融業で稼げないという言い訳がある が、問題は言葉のハンディにはなく、西洋発の原 理原則を理解していないためではないかと指摘する。しかし私はこれも皮相的な見方で西洋発の原理原則はすでに明示的知識で古くなった文系的概念だ。自分で 考えることをせず、西欧の権威が言ったプリンシプルを押し頂いたところで、彼らより優れた成果を出せるわけではない。いままでも追従してきて追いかけに終 わっている。西洋が成功したのは理系的行動原理であるサイエンスが教えてくれる。サイエンスは観測したものが正しいと認定する。そしてその裏の作動の秘密 は何かと解明してゆく、なにか知見が得られれば、率直にそれを認めるという立場だ。人間社会も自然現象で正しい手法を用いれば因果関係を解明できる。そし てサイエンスを始める心はそれと気が付く暗黙知を必要とするだろう。日本の文系的指導層はいま だ「武士に二言はない」という言葉で、権威付けし、古めかしい明示的知識で愚民を動かそうとする。しかし少し賢くなり、権威を疑い、自分で考えるように なった人間はついてゆけない。だから社会として有効に作動しないのだ。

私が業界にいた経験では暗黙知が発現するデザイン能力は個人の発想能力に比例する。しかし日本の全体主義的、権威主義的社会では抹殺される能力だと思う。 安倍政権はまさに 全体主義的、権威主義的社会を夢みているので日本の未来は暗いといわざるをえない。ますます沈むのではないか。投資している人はアベノミックスを歓迎して いるがこれはバブルとなりやがてはじけるだろう。だいたい日本にはKPCBのような理系のファイナンス組織はない。あるのは文系の盲目のファイナンス組織 しかないのだ。

政府がもし本当に日本経済を上向かせたいなら、少なくともがんじがらめの規制を解き放ち、電力の地域独占などの特権を剥奪してほしい。そして社会のなかで 伸びる芽を摘むような文系優位社会を変えてゆかねば真の組成はむずかしいと思う。

内村鑑三や新渡戸稲造らの思想と行動はキリスト教者だからと思われているが実は非常に理系的に発想し、行動している。そういう意味で彼らは理系的人間とい える。これは若きとき日本的伝統から隔絶した札幌農学校でウィリアム・クラークの直接、間接の薫陶を受け、後、米国で教育をうてたとき骨肉となったもので あろう。理系は真理は必ず勝利する、間違ったことに気がついたらすぐ直せ、現世や来世のためではなく、長い視野で後世のために努力せよ、そ して相互理解が大切ということを知れと説く。人々から思考を奪い、権威を利用して命令するのは文系的な行動様式である。「武士に二言はない」というのは意 見を変えれば権威は失せると信じているからだ。日本の帝国主義的な戦争から原発敗戦までの一連の 動きはこれである。そして性懲りもなく繰り返す。岸の孫が政権につくなど、日本は何も変わっていない。ただ奈落に向かって落ちてゆくだけだ。

日本を救うの は「理魂文才」だろう。「暗魂明才」と言っても良い。私が初めて言い出したのかと思って調べると東京工業大学の社会理工学研究科経営工学専攻、工学部経営 システム工学科が「理魂文才」を使っている。

日本の問題は文系が指導階層を独占して特権階級を構成していることにある。構想・判断能力もない人間が指導層に上り詰める。この解決は人間性の本質に起因 し、むずかしですね。日本社会の成長が止まったのはこの見えない階級があるためというのが私の観察で、その批判対象にされた階層の人間からみれば認めたく ない既得権益だ。私は階級闘争なんてなまぬるくて革命がなければ解決できないと思っている。それもできないから人口が減り、日本の国際的な地盤低下は継続 するだろう。

本論文はアップル社のような音楽をネット経由で切売りするというイノベーションをした点に焦点を当てているがゆえに英国病の解明はしていない。英国病はロ ンドンが金融の中心となり稼ぐことができたというご先祖の遺産に胡坐をかいたためといえる。だから英国では誰も真面目に製造業に取り組まなかった。だから 文系優位の社会になってしまったのだろうとおもう。

ドイツは後発国でいつも英国に出る釘は打たれるという立場だったので製造業に愚直に取り組んだ。またドイツはマイスター制をとっており、職人は丁稚奉公で 技を身に着けて一生それで生きるというところがある。それで高価な手作りのスタインウェイを作って高く売るとか。日本の造船や重機械産業は大企業で全て旧 財閥系のため、組織は縦割りで経営者は財務・人事中心である。そのため製造業への執着はない。製造部門がコスト競争力を失えば即、製造部門を解体してし まった。といって新しい製品体系を創造するということは文系にはできない。

私の居たエンジニアリング企業というのは当初は機械・機器類は自社製品も含め国産品を使っていたのだが、自ら自社工場を解散し、日本のメーカーもやる気を なくしたのでイタリーと米国に調達の支 店を設けざるをえなかった。最近ではその米国のGEもイタリア子会社でガスタービンを作っているそうだ。いずれ米国も英国の日本の二の舞になるのだろう。

調達は国際化してもマンパワーを消費する配管設計を傘下の零細設計会社にさせていると零細企業であることと老齢化でCAD化の波に取り残されてしまった。 急遽、フィリピンとインドに設計子会社を設立して若い人材を集めた。彼らが腕を磨きテークオフするまでの数年間は設計品質が低下して苦労した。このように エンジニアリング会社は基本設計は国内で行っても、機器製作と詳細設計は海外で行うことで、品質保証をしつつコスト競争力を確保している。いわばアップル 社がしていることとおなじことをしている。三菱、東芝、日立などいわゆる財閥系メーカーの企業が原発を米国に輸出する場合、中国の機器をつかって品質保証 できるのか?一旦事故が生ずれば取り返しがつかない。他人事ながら心配。政治家の「優秀な日本の技術を輸出して稼いでもらいたい」という発言を聞くとなに もわかっていないなと絶望感が胸にこみ上げてくる。

メーカーやエンジニアリング企業はこうして生き残れるだろうが、国家としては輸出が減って衰退する。米国も英国も同じ。

ただ米国はグーグルのようなアルゴリズムに強い企業が自動車の自動運転システム、流通システムを開発して利益の上前をはねるのでしょうが?


参考文献

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2.    野中郁次郎他「失敗の本質」ダイヤモンド社
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13.    立石泰則「さよなら!僕らのソニー」文芸春秋
14.    高木高裕「なぜノキアは携帯電話で世界一になり得たか」ダイヤモンド社
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26.    クレイトン・クリステンセン「イノベーションのジレンマ」翔泳社
27.    ロバート・B・ライシュ「勝者の代償 ニューエコノミーの深淵と未来」東洋経済新報社
28.    オリ・ブラフマン、ロッド・A・ベックストローム「ヒトデはクモよりなぜ強い 21世紀はリーダーなき組織が勝つ」日経BP社
29.    山本七平「日本はなぜ敗れるのか 敗因21ケ条」角川グループパブリッシング
30.    ジャレッド・ダイアモンド「銃・病原菌・鋼鉄」草思社
31.    野口悠紀雄「金融工学、こんなに面白い」文芸春秋社
32.    カレル・ヴァン・ウォルフレン「日本/権力構造の謎 上下」早川書房
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34.    ダニエル・C・デネット「ダーウィンの危険な思想 生命の意味と進化」青土社
35.    アルフレッド・マハン「海軍戦略」原書房
36.    J・R・ヒックス「経済史の理論」講談社
37.    フランシス・フクヤマ「信無くば立たず」三笠書房
38.    フランシス・フクヤマ「大崩壊の時代―人間の本質と社会秩序の再構築 上下」早川書房
39.    アントニオ・ネグリ、マイケル・ハート「帝国 グローバル化の世界秩序とマルチチュードの可能性」以文社
40.    エマニュエル・トッド「帝国以降 アメリカ・システムの崩壊」藤原書店
41.    デビッド・S・ランデス「強国論」三笠書房
42.    松原久子「驕れる白人と闘うための日本近代史」文芸春秋
43.    ポリー・プラット「フランス人 この奇妙な人たち」TBSブリタニカ
44.    内田樹「日本辺境論」新潮社
45.    森嶋通夫「なぜ日本は没落するか」岩波書店
46.    武田堯、猪苗代盛、三宅章吾「脳はいかにして言語を生み出すか」講談社
47.    Ryota Kanai1, Tom Feilden, Colin Firth, Geraint Rees1, “Political Orientations Are Correlated with Brain Structure in Young Adults”Current BViology Vo. 21, Issue 8, 26 April 2011
48.  竹内洋「学問の下流化」中央公論新社
49.   スティーヴン・D・レヴィト、スティーヴン・J・ダブナー「超ヤバい経済学」東洋経済新報社
50.    ナシーム・ニコラス・タレブ「ブラック・スワン」ダイヤモンド社
51.  木本協司「「CO2温暖化論は数学的誤りか」理工図書
52.   アーノルド・トインビー「歴史の研究」中央公論社
53.   中西輝政「なぜ国家は衰亡するのか」 PHP研究所
54.  吉澤五郎「トインビー 人と思想」清水書院
55.   アントニオ・ネグリ、マイケル・ハート「コモンウェルス(上下)―<帝国>を超える革命論」NHKブックス
56.   水村美苗「日本語が亡びるとき  英語の世紀の中で」 筑摩書房
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60.  ティム・ジャクソン「インサイドインテル」
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68.  小室直樹、日下公人「    太平洋戦争、こうすれば勝てた」
69.  藤原正彦「国家の品格」

  December 22, 2012
Rev. February 16, 2018

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