読書録

シリアル番号 765

書名

ウェブ進化論

著者

梅田望夫(もちお)

出版社

筑摩書房

ジャンル

テクノロジー

発行日

2006/2/10第1刷
2006/4/10第9刷

購入日

2006/4/14

評価

ちくま新書

店頭にて衝動買い。

ムーアの法則、 オープンソース、マス・コラボレーション、ウィキペディア、グーグル、ロングテール、Web 2.0、ブログ、ソーシャル・ブックマークなど最近のIT動向解説書。

世界中のサーバーに収納されているhtml文書は世界市民の共有物で誰でも読めるのだが膨大でこれを検索できなければただの浜の真砂にすぎない。ヤフーが検索サービスを始めて成長したが イマイチの不満がのこった。検索エンジンは世界中のサーバーに収納されている全てのhtml文書を定期的にそっくり自分の巨大コンピュータにコピーして番号をつけに取り込み、キーワード毎にリンク数の多い順に順序つけた表をあらかじめ作成しておかねばならない。ヤフーは人海戦術でこれを作っている ため価値判断が恣意的になされておかしい。

スタンフォード大の博士課程をドロップアウトしたセルゲイ・ブリンとラリー・ペイジによって知の世界の秩序の再構築を目的として創業されたグーグル社がこれを自動化してから検索サービスの質が非常に向上した。

グーグルはまず検索エンジン用のハードウェアを安く構築するために規模拡大時のリソース対効果を最大化し、かつハードディスクやプロセッサーが故障してもシステムがクラッシュしない最新の設計理論であるスケーラブル・アーキテクチャで自作した。2005年の時点でマイクロプロセッサのボード30万枚に相当する規模になっている。チーフ・オペレーションズ・エンジニアのジム・リースの語るところによると数テラ・バイト、30億ウェブ・ページにインデックスをつけ、毎秒数千リクエストをさばく検索エンジンは1万台のリナックス・サーバーを使っているという。

グーグルのPageRankTM は、html文書に書き込まれた膨大なリンク構造を用いて、ページAからページBへのリンクをページAによるページBへの支持投票とみなし、この投票数によりそのページの重要性を判断する。リンク数を見るだけではなく、票を投じたページについても分析し、「重要度」の高いページによって投じられた票はより高く評価されて、それを受け取ったページを「重要なもの」とされるという。

試みにグーグルでSeven Mile Beachと入力して検索すれば当HPのトップページが10,400,000 件中の一位にランクされていることがわかる。HPハイパーテキスト文書約4,000ページからすべてトップページに 内部リンクを張ったのがランクを押し上げて居るのかは不明。同一URL内のリンクと外部URLからのリンクは区別できるので多分外部リンクだけをカウントしているのだろう。このサイトを一度訪問された方が自分のサイトのhtmlページにリンクを書き込んでくれたからであろう。

何か調べたければもう図書館に行かなくても済む時代がきている。百科事典も無用の長物となるだろう。エンサイクロペディア・ブリタニカ収録の項目65,000に対し、ウィキペディアは5年で870,000項目を収録したという。日本語でも160,000項目である。 群集の叡智を集約するマス・コラボレーションの成功例である。その質も専門家が書いたエンサイクロペディア・ブリタニカと大差ないという。専門家でも間違ったことを書くものなのだ。

本HPの言語録とか専門性の高い文献はちゃんと上位に位置づけてくれているので間違いの指摘、追加情報の提供、現役からの感謝メールなどもらう。現役を引退した老人 (グリーンウッド氏もその一人だが)でも意外にネットに住んで情報を発信している方々が多い。なにせ一銭も余計に金がかからないところがミソ。自費出版社が倒産したというニュースも時代を象徴していると思う。

グーグルは7年間で3,000人、売上高4,000億円の企業になった。その組織は情報共有原則で運営されている。情報情報はベスト・アンド・ブライテストだけから構成される社員全員がアクセスできる。そしてそのページへのリンクの多いもの程上位になるというグーグル検索とおなじ原理により自然淘汰される仕組みになっている。

従来型の囲い込み型ビジネスではなく、OSのリナックス開発やウィキペディアのような群集の叡智を集約するユーザー参画型百科辞典開発のコンセプトであるオープンソース、マス・コラボレーションが成功した。このコンセプトをインターネットに適用して成功したのがグーグルとアマゾンドットコムである。

クリス・アンダーソンがインターネット・コマースが多品種少量流通コストを下げたため、アマゾンのマイナー本の総売上高は全書籍販売の総売上の半分ないし1/3になったという分析から従来の本の流通機構が対照にしたベストセラー本という恐竜の首部分ではなく、大多数の負け犬というロングテール部分がビジネス対象にな りうるという認識を発表した。これってマーケットがスケールフリーな「べき乗則」で説明できる構造になっていることだろう。世界の大部分はフラクタルな構造なのだ。(べき乗則をファットテールともよぶ)

日本ヤフーと楽天はWeb2.0に移行するために不特定多数のサイト運営者に自社開発のウエブサービスのAPI(Application Program Interface)を提供する技術能力を持っていないように見える。

筆者は本サイトを運営してなにかビジネスに結び付けられないか日頃考えていたが、今までは小物を売ったところで、商品を発送し、代金回収する労力とコストを考えればなにもしないのがベストという結論になった。広告、商品発送、決済システムを自動化し、ローコストで行うロングテール ・マーケット対象のグーグルのアドセンスまたはアマゾンのアマズレットの仕組みを利用すれば共存共栄のボサノバということになりそうだ。とはいえ我がサイトは物売りが目的ではないのでアドセンスの利用がせめても節度というものだろう。

Tim O'reilly氏が命名したWeb2.0は上原仁によれば、「プラットフォームとして位置づけ、オープン志向・ユーザー基点・ネットワークの外部性といったインターネット本来の特性を活かす思想に則って提供されるサービスの次世代フレーム」としているがフラクタル・マーケットを対象に するための技術革新だ。

ブログが普及したテクノロジー上の理由は一つの記事をコンテンツの単位として固有のアドレスURL(パーマリンク)とサイト更新状況を要約してネットに発信するRSS (RDF Site Summary)を自動生成していることだ。これが情報の自己増殖・伝播メカニズムとなっている。ロングテールの群集の叡智を集約するブログはメディアの恐竜の首である、ある米国TV局のアンカーマンの地位を奪うまでになっている。

ソーシャル・ブックマークとは個人のPCのブックマーク・リストをコメントとともに公開するものではてなブックマークdel.icio.usでサービスを提供している。

以上10年間シリコンバレーにドップリとつかった著者からの報告だが、著者もいうように「組織を一度も辞めたことのないエスタブリッシメントが支配する日本ではウェブ進化が発生する可能性が低いが、携帯世代はもしかしたら何かをしてくれるかもしれない。そのためにもこれら世代をシリコンバレーに連れてきてその空気を呼吸させてやる必要を感じているようだ。


トップ ページヘ