読書録

シリアル番号 894

書名

コモン・センス

著者

トーマス・ペイン

出版社

岩波書店

ジャンル

政治学・地政学・行政学

発行日

1976/4/16第1刷
1985/10/11第13刷

購入日

2007/09/18

評価

岩波文庫

ミセス・グリーンウッド蔵書

大川周明著「米英東亜侵略史」を読んだ後、比較のために英国被植民地だったアメリカが対英独立戦争を戦う上で日和見の世論を独立戦争へと駆り立てたパンフレットを読むことは有意義と思ってこれを書棚から抜き取った。

独立戦争当時のアメリカの人口が250万人だったのに、このパンフレットの販売部数は50万部に達した。この「コモン・センス」は「資本論」、「種の起源」と肩をならべる世界を変えた書物とされる。

トーマス・ペインはイギリスのノーフォーク州にてコルセット職人の子として生まれた。長じてコルセット製造、収税吏などの仕事をしたがいずれも失敗。結婚も失敗して37才にして落伍者となった。ベンジャミン・フランクリンと会って彼のすすめでアメリカに移住し、ジャーナリストとなって「コモン・センス」を書き、一躍名士となるのである。

彼は社会と政府は別物であるとする。そして社会はキリスト教の愛と徳の原理すなわち性善説に立つが、政府は人間の性悪説に立って 、それを何とか次善の策でまとめようとするものだと議論している。冒頭にでてくる原罪に立脚した「政府は、着物がそうであるように、罪を犯した印である」 は政府の性格を鮮やかにクローズアップさせる。

一読しての感想はペインの思想はトーマス・ジェファーソンの独立宣言に盛られた思想と一致する。だがしかし歴史上の全ての王政を痛烈に批判し、共和制が優れていることを執拗に立証しようとする執念には驚く。特に王政が戦争を頻発させるという点になると確かに戦前の日本の天皇制はそうだったと理解できる。戦後の天皇制は骨抜きになったのだが、それでもこれを利用しようという連中がいるから困る。美しい国を標榜し、戦後レジーム(自虐史観)を脱却すると言った人もそのうちの一人だろうかと危惧したが、自滅した。ただその後の歴史を見ればトーマス・ペイン の予言は当たらず共和制国家ですら好戦的という印象は否めない。

1970年に仕事でペンシルベニア州のアレンタウンに長期滞在したとき、アメリカの独立戦争の戦場の話がしばしば話題になった。まさにトーマス・ペイン が義勇兵として戦場にかけつけたところだったのだ。

Rev. September 23, 2007


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