読書録

シリアル番号 564

書名

虚構の終焉

著者

リチャード・A・ヴェルナー

出版社

PHP研究所

ジャンル

経済学

発行日

2003/4/7第1刷
2003/4/28第1刷

購入日

2003/05/03

評価

西野氏推薦のヴェルナー氏の新著 「虚構の終焉」を買って来て、数時間で全容をつかんだ。読んでよかったというのが偽らざる感想。著者は「円の支配者」の著者と同じ。

主流古典派経済学の準拠するワルラス的均衡理論が欧米の経済運営の中核をなしている。この理論は全ての人は同じ情報を共有し、利己的に行動するという前提条件が成立しているときにかぎり成立するが実態は全ての人が同じ情報を共有することは不可能である。したがってここから導きだされる自由市場パラダイム政策(規制緩和、民営化)は誤ったものになる。それでもこの弱点が露呈しなかったのは英国、米国の繁栄が貿易制限、保護主義、政府介入などの見える手で達成されたため、ワルラス的均衡理論が正しいと錯覚してきたためである。英国の貿易制限、保護主義、政府介入の実例としてはフランダースから毛織物加工職人を招聘し(フレミング姓のもと)毛織物の輸入禁止、などの政府介入によって羊毛生産という一次産業国からの脱皮をはたし、古典派経済学の比較優位論を武器に製品の輸出を計った。米国が独立戦争をしてのち初めて英国のくびきから解き放たれ、米国の発展は開始した。このように主流マクロエコノミストの理論は英国と米国にとっては競争相手を排除するの都合のよい理論だった。

銀行はその貸し出し行為によって真の信用創造を行なう直接金融機関で株式市場は預金の移動に過ぎず信用創出のない間接金融である。ドイツと日本の戦後復興およびアジアの急成長はこれによって達成された。ワルラス的均衡理論が日本の1990年以降の苦境を説明できないのはこの理論が誤謬だからである。日本では目下資本調達は銀行借入から株式発行に転換しなければならないとされているがこれでは経済は元気にならない。

ワルラス的均衡理論を廃し非均衡理論を採用すると希望が見えてくる。だが信用市場は需給均衡でないため、自由市場による信用の割り当てが上手く行なわれないという問題がある。これをだれかがしなければならないという問題が生じる。銀行がこの割り当てを間違わないように賢明な政府の介入が必要とされる。馬鹿な政府は困るが、主流マクロエコノミストのワルラス的均衡理論が信じる「見えざる手」というものが機能しない以上、次善の方法というのが氏の理論の骨子である。しかし日本のバブルは馬鹿な日銀が過大な信用創造を行なった結果でもある。

彼の提唱する日本経済の救済策は日銀による信用創造で、その手段としては国債の市中からの買い入れであった。日銀にこれを強要するために日銀法を改正すべしとまで提案。日銀に限らず世界の中央銀行の市民からの独立は法的に禁止し馬鹿な行為をさせないようにするセーフガードが必要となろう。


日本の役人、日銀、銀行を含め、この信用の割り当てを人民の福祉のために行使できるとは思えない。氏の分析はその通りだしそうしなければならないとおもうが、その前に姓悪説にたって、イングランドのジョン王の横暴な課税を制約すべくシモン・ド・モンフォール議会が王にのませた契約書マグナカルタにならい、バブルの到来やその後の10年間の不景気をしでかしたリバイヤサン(Image Data Base Serial No.21)になりうる統治権力を馴致するための憲法のごとき義務規定を作ってからでないと氏の案を実行する権限を日銀に与えるのは危険だと思う。プラトンは民主制の必然的堕落(経済学では市場の失敗)の解決法として哲人王の統治を対置したが、哲人王の考えはレーニンの「前衛党」や「管制高地」の考え方とにていて、危険だと歴史が教えている。

彼の信用創造の主張は私がラウンドテーブルで主流マクロエコノミストの一人のクルーグマン流に流動性の罠から抜け出すためにインフレ政策を日銀が取るべきと考え「日銀にも長期国債が58兆円もあるなどとビビッテいるようでは日銀総裁が勤まるような政策ではないのです。58兆円というと巨額のようにみえますが、総貯蓄額1000兆円の6%に過ぎません。6%ではインフレははじまらないと感じませんか?」という発言とたまたま一致したので嬉しく感じた。思考過程は異なったが対策は同じだったわけ。彼の策を支持したい。ただそれには制度変換がまず必要。いずれ歴史が誰が正しかったか証明するであろう。

学問は自由が保障されねば発展しないのは事実。それにしても経済学の大家がその理論が現実に生じていることを説明できなくなったとき、自分の権威を守るために率直に認めないと何十億という人々を不幸にしていることも事実である。そのような経済学者の行為は万死に値するのではとも思う。


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