読書録

シリアル番号 1094

書名

大崩壊の時代―人間の本質と社会秩序の再構築 上下

著者

フランシス・フクヤマ

出版社

早川書房

ジャンル

歴史

発行日

2000/7/31初版

購入日

2011/12/17

評価



原題:The Great Disruption -Human Nature and the Reconstruction of Social Order by Francis Fukuyama 1999

鎌倉図書館蔵

フランシス・フクヤマの著書はすでに「信無くば立たず」、 「歴史の終わり 上下」を読んでいる。これで3冊目だ。いずれも大部 であるがいっていることは単純である。

一読してまとめれば「信無くば立たず」のロジック上にある。ただ人間の本質について最新のゲーム理論、脳の構造、神経生理学、生物学、進化論の応用が追加 されている。

社会が機能するためには法と秩序もヒエラルキーが必須であるが、そのほかに社会の成員をしばる道徳、倫理、宗教などの社会規範と相互信頼が非常に重要とな る。ところがこの社会規範が崩れ、相互信頼が失われててきているとして最近の米国社会の崩壊、犯罪の増加とその原因についての論考が行われる。意外にも女 性の権利の獲得、教育水準の向上、社会保障制度が家族を縛る規範を緩くしたためという逆説的な展開となる。

ヒエラルキーの弊害を除く方法として自律分散、ネットワーク、フラット組織、自己組織化が推奨されているが、限界がある。共有地の悲劇を防止する信頼の醸 成 (社会資本)は人間の脳にビルトインされている、囚人のジレンマを回避するためには@ヒエラルキーによるA自己組織化B繰り返しによる囚人のジレンマ回避 によるしかない。ABを阻害する要因は@となる。また@は地位を求める人がセロトニン・ハイを経験して中毒症状を呈することである。

産業が工業から情報社会に変化したとき、中央集権的で権威主義的な企業は衰退した。その理由は権力者は専門家に権限を委譲しなければ組織は機能しないから である。こうして中央は情報もうしない無能化するのである。このとき全体のシステムの調整を行うのは市場となる。

日本の製造業が米国のそれに優れていたのは相互信頼があったから。シリコンバレーの成功も構成メンバーの学生時代やその後、同じ企業で働いたとき醸成され た信頼があったため企業間の協力が可能となったのである。

権力を分散した組織が機能不全に陥るときは派閥間の競合という形になる。これを解決するのはヒエラルキーである。そうして地位と認知をめぐる競争が発生す る。戦争、決闘、復讐となる。

とはいえ自然組織化よりヒエラルキーに必然性がある。


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